第三話 ハハッ、強くなりてぇってずっと思ってたが、自分の実力で強くなりたかったな。

『……覚めよ、目覚めよ』


 あぁ、今日もこの夢か。ここ最近同じ夢ばっかだ。目覚めろってなんだよ。朝になったら勝手に目が覚めるっての。


 いや、うん、そうじゃない事くらいわかってるって。この異変? 変化? はヴァンと旅を始めて、ガビって野郎と戦い始めた頃から起きていた。ちょっと前まではたまにしかこの夢を見なかったが、ここ最近は毎晩のように同じ夢ばかりを見させられる。


 どうせだったらもっといい夢が見たいんだけどな。


 はぁ、まぁそれはともかく、この夢が原因かわからねぇが、戦っていない時でも、なぜか俺の魔力が徐々に上がっている。それはまるで


 おかげで自分の身体なのに、制御が難しくなってやがる。ようはやりすぎちまうんだ。


 ヴァンや双子もかなりの魔力なんだろうが、おそろく俺の半分程度しかないだろう。まるで俺が俺じゃないみたいだ。


 ハハッ、強くなりてぇってずっと思ってたが、自分の実力で強くなりたかったな。


 おっと、そろそろ起きる時間か? ヴァンのこともあるし、頑張らねぇとな。











「コロ~~コロコロ~~」


「ん? お、おう、コロ」


 俺の顔面を叩いて起こしているのは俺の相棒であるコロだ。最初の頃は呼び出さなければ出てくる事が出来なかったそんな相棒だったが、今となっては常に召喚された状態だ。これもおそらく俺の魔力が上昇してるからだろう。


 おっと、これ以上寝惚けてるとコロの機嫌が悪くなっちまう。布団をどけて、コロを肩に乗せるとテントから外に出る。双子と共に来た騎士団は既に朝の準備をしていて、あわただしく活動を始めている。


「あまり遅れるとリスにも怒られるな……」


 ため息をついてみんなが集まるテントへと入っていくと、既に俺以外のメンバーは席についていた。


「おはようございます」


 ようやく気持ちが落ち着いたか……? まだちょっと落ち込んでいる様子が見えるアイに挨拶を返し、自分の席についた。


「遅い」


 相変わらず感情のわかりにくい淡々とした表情で責めてくるリス。


「一番遅かったのは認めるけどよ、そんな責められるほどじゃないだろ?」


 言い返すとシカトしてアイの方を向いて話し始めやがった。そんなに冷たくしなくてもいいじゃねぇか。


「ハァ……。それでヴイは戻ってきたのか?」


 今さら文句いっても仕方ねぇ。今はもっと大事な話をしねぇとな。今、この場にヴイの姿はない。なぜなら今回のヴァンが拐われたこの状況の説明を求める為に、先に自分の部下を連れて国に戻ったからだ。


「まだ戻ってきてないわん……」


 今日で約束の五日が経つのか。そうなると──。


「俺達も獣国に向かうべきか」


 自然と拳に力がこもる。ヴイが戻ってこれない程の状況って事はつまり、向こうは敵地になっちまってるんだろう。一応双子らの部隊と一緒に獣国に行ってもいいんだが、それだと目立ちすぎるな。それも含めて今後の方針ってやつを決めないとな。


「アチシ達としては一旦国に戻って、改めて獣国に抗議、センセ~を返してもらうのが筋だと思うわん」


「おいおい、そんなんじゃヴァンとヴイがヤバいんじゃねぇか??」


 一応今のところヴァンとヴイが死んでいないのはわかっている。なぜならルンパの本体がヴァンの影に、分身体がヴイについていて、ここにいる分身体からちょっとわかりにくい仕草だが、死んでいない事は教えてもらえている。まぁだからこそ、一旦国に戻ってなんてのんきな事をいえるんだろうよ。


「センセ~が心配なのはわかるわん。けど今回、アタシ達は獣国に謝罪する為に来てるの。それなのに帝国の部隊がこのまま獣国に侵略しに来ていると捉えられかねない行動は出来ないのよん。あの蛇族にもそう疑われてたのだからなおさらね。ごめんなさいねん」


「くっ、それは……」


 この双子は俺達と立場が違うからな。俺達のようにいざって時は自己責任なんて訳にはいかない。だけど、このままおめおめと帰るわけにもいかないだろ。


「じゃあ、「わたし達だけで行くのでお二人と帝国軍は一度本国へ帰り、此度の事を皇帝陛下にお伝えください」


 うん、いいたい事をいわれた。ずっと黙っていたアイのその瞳にはそれだけの覚悟があった。このまま仲間を見捨てるなんて俺達には考えられねぇからな。


「ごほんっ、まぁそういうこった。そのへんは二人に任せるぜ」


 向こうも予想してたのか、特に揉める事もなく、俺達はこのまま単独で獣国に侵入。そして、情報収集を行い、双子達帝国軍は、一度本国に戻り、改めて、使者を出す事になった。本当はヴァンを助けに行きたいんだろうな。我慢しているのがよくわかる。正体がバレてからもセンセ~って呼んでくれてるんだもんな。ヴァンのやつ、好かれてんだな。この二人が悲しまないようにする為にも、俺達が頑張らなきゃいけねぇ。


 出発は明日。仲間達ともこれからの事をきっちり練っておかねぇと何が起こるかわからねぇ。ヴァンがいなくなり、それ追いかけたヴイも戻ってこねぇ。幸いにも生存確認だけはしっかり出来ているが、それだっていつまでも無事だって訳じゃねぇからな。


 方針が決まると辺りが騒がしくなってくる。俺達もテントを後にして明日の準備に取り掛かる。ヴァンが心配だからって何も考えないで突っ込む訳にもいかねぇからな。アイの心はまだちっとばかし不安定だし、そうなるとリスはアイにつきっきりになっちまう。て事は俺が、いや、俺とコロが頑張らなきゃだな。


 気合いを入れていると腹の音がこれでもかと主張してきた。おっと、そうだった。朝一で今後の方針を決める必要があったからまだ朝飯食えてねぇんだった。腹が減ってたら力が出ねぇ。


「バカ」


 後ろを振り向くとリスが呆れた表情で文句をいってきた。だが、その隣のアイがクスっと笑うとホッとした表情になる。


 心配事だらけだなぁ……。なぁ、ヴァン? お前がいないだけで、このパーティーぐちゃぐちゃなんだけど、どうしてくれんだ? さっさと戻ってこいよ。


「うっせぇ。とりあえず朝飯にすっぞ」


 方針は決まった。とにかく今日はしっかり準備して明日に備えるんだ。よし、頑張るぞ!

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