第二話 ヴァンがいると良くも悪くも賑やかになるから、いなくなった途端に静かになってしまう
「ヴァン、おっそいなぁ……」
ヴァンが蛇族のやつらに連れられてから暫く経つが一向に戻ってくる様子がない。俺達はその間、何も出来る事がないからと簡易的にテントを敷いて待機していた。ヴイが何度か蛇族の兵士にヴァンの様子を聞きに行ったが、はっきりとした答えは返ってこなかったらしい。他の仲間達もそわそわした様子で落ち着きがない。
「ケルヒさん、ヴァンさんは、大丈夫でしょうか?」
その中でもアイは特にヴァンの事を心配している。いつものアイなら、もっと表面上は冷静に対応できる筈なのに、こんなに取り乱しているアイは初めてだ。それ程、ヴァンが大切な存在なんだろうな。
「だいじょ「大丈夫」
「おい!」
リスはこちらを見もしないで、アイの方へと歩いていく。わざとやっているのはわかっている。それがアイの為だという事も。大丈夫とはいって慰めてくれているが、心配そうな様子は隠しきれていない。ヴァンがいると良くも悪くも賑やかになるから、いなくなった途端に静かになってしまう。
ちなみに蛇族は、俺達と距離を少しでも離したいのか、それなりに距離を離したところで俺達同様、陣営を組んでいる。まぁこっちには皇子もいるしな。今の関係性から考えたら普通の事だろう。逆にいきなり友好的に来たら罠だと判断すべきだ。
ただそんな最悪だった関係にも、ヴァンのおかげで、少しは改善される兆しが見えてきたんだ。だけど、その肝心なヴァンが向こうへ行ってしまった。
なんとなく、嫌な予感がする。険しい表情をしていると胸元にいたコロが顔を出して心配そうにこちらを見ていた。
「コロ~……」
「コロ、心配すんな。大丈夫だ。ヴァンもすぐに帰ってくるさ」
俺達の希望とは裏腹に、日が暮れてもヴァンが戻ってくる事はなかった。
「おい、なんか向こうの様子おかしくないか?」
辺りが真っ暗になってきて、火をたいた頃、最初の異変に気付いたのは俺だった。先程まで確かにいた筈の、外を見回っている兵士がいなくなっている。慌てて俺達は蛇族がいた筈の陣営に飛び込んだ。
中央にあった一番大きなテントに飛び込む。そこは既にもぬけの殻でヴァンはおろか、蛇族すらいない状態だった。
「ヴァーーーーーーーーーン!!」
「ヴァンさー--ん!!」
「センセ~~~~~~!!」
みんなで叫んでみるが、どこからも返事が返ってこない。それぞれが蛇族の陣営内をくまなく探しているが、人の気配は全くなさそうだ。
そして今、俺の目の前に見えるのは人が通れそうな穴。ここから逃げたのだろうか?
「ガウ。蛇族、ヴァン、連れて、ここ、逃げた」
どこか確信めいた表情でヴイが言ってきた。
「これってさっきの蛇族のやつらが作ったやつなのか?」
「ガウ。蛇族、逃げる、穴、掘る」
なるほど……。蛇族が逃走する時にこうやって穴を掘って逃げるのか、そして今回はヴァンをそのまま連れ去ったってとこか。だけど、相手が何をしたいのかわからねぇ。
「ヴイさん、ヴァンさんは大丈夫なのでしょうか?」
ヴァンが連れ去られたのがよほどショックだったのか、珍しく取り乱しているアイをリスが一生懸命宥めていた。まぁ無理もないな。アイはおそらくヴァンの事……。
いや、今はそれより……。
「なぁ、ヴイ? 獣人族はなぜこんな事をしてきてんだ?」
大事なのは、なぜ獣人族がこんな事をしてきたのかだ。今回、謝罪に向かう事は両国には伝えてあった筈だ。それにこの状況で襲われるとしたらヴァンじゃなくてここにいる双子だろう。ヴァンを攫う理由はなんだ? 苦虫を嚙み潰したような表情で考えこんでいるヴイにそう問いかけるが返事はかえってこなかった。
「とりあえずアチシ達の野営地まで戻りましょ? アチシ達の部隊からママンに伝令を出しとくわん」
一歩踏み出す筈だったんだよな……? ヴァンがあれだけ頑張ったのにどうなんだるんだ、こりゃ。
取り乱しているアイを宥めながら俺達は自分達の陣営へと戻っていくのだった。
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