第六章 獣国騒乱編
第一話 うん、どうしたってこうなってしまうわ……。
暖かい日差しと、隣に立ついい漢。ウッホ。違う、違う。隣に立つ、ヴイさん。今、僕達はダイスン獣国に向かっている最中だ。メンバーはいつもの仲間達と、ヴイさん、そしてクリサンちゃんとセアムちゃんだ。
予定通り、碧の月になって、十分暖かくなってから移動を開始し、今はちょうど中間地点? 位らしい。もう少し進んだら、ダイスン獣国からの迎えが来て、そのまま一緒に向かうんだって。まぁ護衛っていってたけど、間違いなく監視だよね。いきなり僕達の事を信用する筈ないだろうし……。
「ガウ。ヴァン、いい天気!」
「そうですねぇ。雲一つないですー」
最初の数日はルンパが変形したマルマジロに乗ってたけど、身体が鈍ってくると困るから最近はずっと歩いている。休憩時間にはヴイさんやケルヒと組手をしたり、クリサンちゃんとセアムちゃんに襲われたりと、それはもう楽しく進ませていただいた。
ちなみにクリサンちゃんとセアムちゃんはあれから更に懐かれたのか、めっちゃ距離が近い。そしてヴイさんも距離が近い。更に、アイさんも距離が近い。それを遠目にケルヒとリスがからかっているのがほぼ日常とかしている。どうしてこうなってしまったのだろうか?
クリサンちゃんとセアムちゃんはまぁ教え子だから仕方ないとして、ヴイさんは僕に告白してきて、ヴァン子だと勘違いしてるから仕方ないよね? アイさんはまだちょっと確信はないけど、もしかしてそうなのかもしれない……。
うん、どうしたってこうなってしまうわ……。これってハーレム? ハーレムなの? アイさん以外男だけど、男なら喜ぶところだってサラさんが教えてくれた! いい男は囲むんだって。当時はそうなんだぁ~って漠然と思ってたけど、今ならわかるよ。絶対嘘だよね。サラさんって僕の命が掛かってても罠をはるんだから。騙されないよ!
ハッハッハッ。その程度の締め付け、僕には通じないぜ。全身に魔力を込めて、身体能力を最大限にまで高めているからねっ。おかげでマルマジロがビクビクしてて動かないし、双子の護衛がこちらをチラッチラ見てくるけど、気にしなくていいよね? 今休憩中だし。
「センセ~? そんなに気を張ってどうしたのん?」
「そうよん♪ アチシ達、今は襲わないわよん?」
「それ絶対襲うやつですよね!?」
「「キャッ♪」」
キャッ♪ じゃないよ? ぶりっこしたってその隠す気のない筋肉のせいで物凄い絵図ですからね?
「ガウ。ヴァン、俺、守る」
「ヴイさん、ヴァンさんはわたしが守るので離れていても構いませんよ?」
はい、アイさんも参戦。ナニコレ、地獄絵図じゃん。
「とにかく落ち着きましょう?」
「ガウ。ヴァン」「ヴァンさんは」「「センセ~は」」
「「「「黙ってて!!」」」」
「は、はい」
本当はこの四人、仲がいいよね? いや、まぁ知ってたけど。
とまぁこんな感じで楽しく旅を進められてるよ。それにしてもこの中でもヴイさんが一番リラックスしてるのが意外だった。帝国の人間と一緒にいるわけだし、いくら解放されたからといって、そんなに都合よく今までの事を忘れる事なんて出来ない筈なのに、そんな様子を見せていない。共に移動している解放された獣人族は帝国の人間を見ようともしない。これが普通の反応だと思うし、この悪感情を少しでも和らげるために、クリサンちゃんとセアムちゃんが一緒に来ているのだ。
おっと、そんな事をしてる間に遠くから強い気配を感じる。あまりこちらにいい感情を持ってないような、ちょっと淀んだ気配だ。おそらく獣人族側の護衛兼、監視の人だろう。ピリピリした空気がこちらまで伝わってくる。さっきまで笑っていたみんなもその気配に気付いたのか緊張した表情をしている。
慌てて休憩中に出していた物を片付けて移動の準備を始める。流石は皇族の護衛に選ばれるような騎士達だ。仕事がはやい。目視出来る程に近づいてきた頃には移動できる準備が終わっていた。
それにしても集合地点はもうちょっと先だった筈なのにあちらから迎えに来るなんてどうしたんだろう?
緊迫した状況の中、一人の半分が蛇の姿をした獣人族がこちらにやってきた。険しいその表情にこちらも思わず身構えてしまう。
「シャ~。おまえ達を我が国に入れる事は出来ない。即刻帰れ」
「なっ!?」
思わず、声が漏れてしまった。ここまで来て帰れってどういう事!? みんなが驚いている中、いち早く立ち直ったヴイさんが前に出てきた。
「ガウ。蛇族の戦士。俺、狼牙族のヴイ。どういう事、説明しろ」
「シャ~。そなたがヴイか。此度はご苦労。説明と言ってもなんて事はない。とある筋から帝国がこのまま攻めてくるとの情報があった。その為、我らは我が国の民を保護し、帝国の人間は帰ってもらう事になった」
これは困った事になったぞ。どこからそんな情報が出てきたんだ? とりあえず、誤解を解くためにも、僕が前に立つ。
これは事前にみんなで取り決めをしていた。どうしても帝国の人間だと相手は警戒してしまうだろう。だが、僕であれば、おそらく悪い感情で見られてはいないであろう。なるべく穏便に事を進める為にもこれが一番いい選択だった。
「すみませんが、ちょっと待っていただけますか?」
「シャ~。何だ? おまえは何者だ」
あきらかに警戒した様子でこちらを伺ってくる。
「僕の名前はヴァンです。どうか僕達の話を聞いてくれませんか?」
蛇族の戦士は、僕が名乗ると驚いた表情に変わった。
「シャ~。おまえ、いや、そなたが獣人族の英雄殿か。話は聞いている。他の人間は信用できないがそなたは違う。話を聞こう。そなただけ、こちらに来てもらおうか?」
「ガウ! 俺も、行く!!」
他の仲間達も一緒に行くといっているが、仲間達どころかヴイさんまでダメらしい。
「わかった。僕は一人で行くよ。みんなはここで待ってて」
「ヴァンさん……」
アイさんが心配そうにこちらを見ている。
「大丈夫です。すぐに戻ってくるのでここで待っててください」
出来るだけ心配かけないように笑顔でみんなにそう伝える。みんなは渋々といった様子で僕を見送ってくれた。申し訳ない気持ちはあるけど、こればっかりは仕方ない。ここで争っていては何の為にここまで来たのかわからなくなってしまうからだ。
「シャ~。それではこちらへ」
みんなと別れ、蛇族の戦士と共に獣人族の野営している場所にある天幕へと入る。中は簡易的なテーブルと二脚の椅子、寝る為のベッドがあるだけでそれ以外に何もなかった。
「シャ~。獣人族の英雄殿、お座りください」
蛇族の戦士の言葉に従って座り、きょろきょろしている間に、先程とは違う蛇族の戦士がお茶を持ってやってきた。
「どうぞ」
テーブルに置くと素早く去っていった。
「それでは、僕のお話を聞いていただけますか?」
「シャ~。勿論、聞きますとも。その前に、長旅でお疲れでしょう? お茶をお飲みください」
先程までの緊迫していた表情が嘘のように笑顔で対応してくる蛇族の戦士。勧められたからには飲まない訳もいかない。確かに疲れてるし、一口いただこう。
一気に飲み干して一息ついたところで、蛇族の戦士が笑っているのに気付いた。
「なぜ笑っているのです?」
普段ではそんなに気にならない筈の笑顔が、今回は凄く気になった。
「シャ~。それはですね、こんなに計画通りに進むとは思ってなかったからですよ」
計画通り……? 危険を感じて立ち上がろうとしたその時、急に眩暈が生じて、立ちあがるどころか、そのまま床に座り込んでしまった。
「シャ~。これであの方も喜ばれるでしょう」
「あの……方?」
僕の言葉にちょっと驚いた表情をする蛇族の戦士。
「シャ~。大したものですね。まだ起きているのですか? ……まぁいいでしょう。どうせすぐに眠るでしょう」
「く……そ…………」
力が入らない。油断してたつもりはなかったんだけどな……。な、なんとか仲間達に伝えないと……。
何とか踏ん張るが、力が入らない。それどころか意識を保つ事も出来そうにない。何とか蛇族の戦士を睨み着けるが、相変わらず笑った表情のままだ。そして力が抜けていき、意識をそのまま失ってしまうのだった。
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