二回戦 龍牙VS享一
「っと。待機スペースかと思ったらすぐに試合か」
ディアンとシルヴィアの二人を下し、次の相手と対面する龍牙。その向かい側にいるのは、本当に普通の少年だった。外見にこれと言った特徴もなく、人混みに紛れると分からなくなるような。
「惑星アースガルムの人間に似ているな。黒い髪色といいあの黒眼といい……」
だが、龍牙は警戒を怠らない。アースガルムの人間は魔力すら使えない龍牙の世界の宇宙では最底辺の生物として認知されているのだが、そんなものがこの場にいる訳がない。
注意はするが、瞬時に終わらせる。爪を伸ばして自身の体に勢いよく突き立てた。さすがに、いきなりの自傷行為には少年――享一もわずかに驚く素振りを見せる。
「……どういう?」
「龍鎖封印式……一号、
龍牙の体に刻まれた魔法陣が一つ消える。自分に施していた力を制御するための封印を一段階解き放ち、内に秘める魔力を爆発的に増加させた。青黒いオーラが溢れてくる。
場の空気が凍り付いていく中、享一は冷静にリボルバー拳銃を構える。周囲の草木が霜に覆われ凍てついていく極寒の地獄に変わっていくのを横目にしっかり狙いをつけてリボルバーの引き金を引いた。
音速を超える速度の弾丸。それに対し、龍牙は腰を落とした。
「……“常闇の剣戟・光明滅殺”」
神速に迫る早さで引き抜かれた刀による居合い斬り。ちょうど刀身の中央で弾丸を捉え、真っ二つに切り裂いて命中を避ける。二つに裂かれた弾は龍牙の後方へと飛んでいきどこかへと消えた。
「厳しいですね。とりあえず、機を見ますか」
素早い連続移動で後方へと次々飛んでいく。その度に移動したルートにある草に細工を施し、足止め用のトラップを無数に作り出した。さらに、念には念を入れて付近に転がる石ころにも軽く触れ、トラバサミとして設置する。さらにダメ押しに石を無数のナイフに変化させて隠し持った。リボルバー銃にも弾を装填し、万が一の時には弾幕を張れるように弾を作っておく。
刀を鞘に収めた龍牙が手を突き出した。その先端に莫大な魔力が収束していき、集まった魔力の圧力で空間がねじれて歪んでいると錯覚するほどの異常現象が起きる。
「何をしようが無駄なこと。消え失せろ」
死刑宣告のような声音と共に放たれる極大の魔力砲。その威力は白露を相手にしたあの時とはまるで別次元のもの。空間を引き裂き、この世の法則を狂わせながら光線が直進した。
「!? こんっな、無茶苦茶な!」
享一は咄嗟に自分を撃ち抜き、溢れた血液を固めて翼を形成した。暴圧を振りまきながら迫る光線を飛び上がって回避する。享一を外した龍牙の攻撃は、享一が仕掛けたトラップの全てを跡形もなく消滅させている。
「……ちっ」
「ひっど。死んだらそう責任取ってくれるんだろう? ……死なないけど」
「まさか、そこまで強力な魔法を行使するとは。それも自身の血液を触媒にして。俺たちは非効率なやり方だと捨てた方法だが、見直す必要があるか? いやはや、新発見ばかりだよ」
「そいつはどーも」
もう一度後ろに飛び下がる。その瞬間に目にも止まらぬ早さでリボルバー銃を撃ち放った。
飛んでくる弾丸を、龍牙は左腕で構える。右手の指を鳴らすと、左腕に盾と、短剣とも爪ともとれる武器が出現した。弾丸はその盾に弾かれる。
「いつのまに……!?」
「まぁ、宣戦布告ってところだ。龍鎖封印式はまだまだ残ってるが、俺の完全武装だけでも見せてやろうと思ってな」
龍牙の姿が霞と消えた。次の瞬間には享一の上空に現れており、刀に闇の力を纏わせて急降下する。龍牙の攻撃が深く享一の体を刻んだ。
それだけに留まらず、享一がいる空間に魔法陣が浮かび上がる。体を完全に固定する呪いに蝕まれ、身動きできない。その間に龍牙は左腕の短剣に氷を纏わせる。
「“龍滅拳”」
左腕を突き出して享一の胴体に大穴を穿つ。体の面積の七割に迫る部分を抉り抜いた後、享一を蹴り飛ばして龍魔刀の先端に炎の塊を作り出した。あまりの熱量に空気まで発火する悍ましいそれを、宙に落として刀で弾き享一に差し向ける。
直撃、大爆発。地面を蒸発させ、空気を溶解させる火炎のドーム。その上を二匹の火龍が飛んで咆哮した。
「クリムゾン・ドラグーン。俺は氷雪属性の魔法が得意だが、炎熱系も使えるぞ?」
あまりに常識外れの攻撃に、あの謎の声も息を呑む様子が窺えた。こんなものを受けて享一が無事であるはずがない。これで決着に思われる。
が、まだ龍牙は警戒を続ける。油断して痛い目に既に遭っているため、今度はヘマしない。
すると、案の定龍牙の死角からナイフが飛んできた。予想通りと思い、ナイフを盾で弾く。だが、今回は享一の読みが先をいっている。
弾かれたナイフのグリップに別のナイフが命中する。お互いに弾かれたナイフはまた別のナイフに弾かれ、不規則な動きで龍牙を全方位から襲った。
ちなみにここまで最初のナイフ襲来から二秒。それも急な絶技に対応しきれず、何本ものナイフを体に受けてしまった。
そのうちの一本。胸に突き刺さったナイフに冷や汗を流す。
「あと少し横だったら、コアを砕かれていた……。ナイフの使い方が巧すぎるだろ」
邪神龍唯一の弱点であるコアを砕かれる寸前だった。危ないという感情は、ここに来てから何度も味わっている。
休息の時間もなく、次々と真っ赤な槍が飛んでくる。先ほど享一が血を翼に変えていたことを思い出し、この槍もその産物だと理解した。槍を左腕の剣で叩き壊していく。
というより、それよりも……。
「なんであれだけの攻撃を受けて生きてるんだよ! 再生コアを持つ神龍ですら、そのコアごと何も残さず消滅させるほどの熱量だぞ!?」
「――僕はクラッシュ・アンド・ビルドの副産物で死ぬことはないからね。残念」
龍牙の周囲に爆弾がぶちまけられる。その一つ一つを正確に弾丸が撃ち抜いて爆発させた。
土煙で龍牙の視界が奪われる。しかし、焦ることなく右手を斜め後ろへと突き出した。指で冷たい感触のソレを止める。
「は?」
「惜しい。完全に不意を突きたいなら、体温も周囲に合わせないと」
享一が突き出したサバイバルナイフを受け止め、アドバイスするようにそう言う。直後、サバイバルナイフが先端から凍り始めた。
「再生して死なないなら、戦闘不可能にすればいい。それも勝利条件だったはずだ」
「似合わないことをするものじゃないな……」
普段は逃げに徹する享一が試した攻めの一手。それは運悪く失敗に終わった。ナイフの氷はやがて享一の体も侵蝕していく。手足が氷に閉ざされ、動くことは叶わない。
一分が経つ頃には、一人の少年の氷像が完成していた。
「さて、もう戦えはしないだろう? 諦めてくれ」
「……仕方ない。降参です」
氷の中から享一が宣言する。その瞬間、氷像は崩れて享一は解放され、同時にあの胡散臭い声が響く。
『け、決着~。勝者、霧島龍牙!』
転移が始まる。すると、龍牙はフッと口元を緩めた。
「楽しかったよ。また、機会があれば戦おう」
「はは、ご冗談を」
苦笑いする享一に提案を断られ、クスクスと滅多に見せない笑顔を龍牙は作った。
最強キャラドリームデスマッチ 黒百合咲夜 @mk1016
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。最強キャラドリームデスマッチの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ネクスト掲載小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます