第8話

 

 私は城塞都市の伯爵である。そんな私にも愛する家族がいる。

 長い間付き合ってきた妻のマリア、そして、5年前に生まれてくれた長女のシャーロットだ。千年戦争も終わり、暫くは落ち着いた日々を得られていた。

 しかし、問題とまではいかないがずっと気掛かりなことがあった。それは、娘のシャーロットの事である。

 

 この子は赤ん坊の頃から変わっていた。赤ん坊にも関わらず、眉間に皺を寄せてどこか苦労したような表情をしたり、夜泣きもほとんどせず、泣いたと思えばお腹が空いたかオシメを取り換えるかのどちらかだった。言葉を話すのは少し遅かったが、2歳を過ぎた頃からは本に強く興味を示し、大人が読むような私が読んでも眠くなるような本の読み聞かせをメイドに願い、困らせている光景をよく見かけた。メイド曰く、理解しているような表情を見せる事が多かったと言っていた。

 

 言葉を話し始めたと思ったら、大人顔負けの事を言う時も出てきた。

 そんなシャーロットにも子供らしい純粋な表情を見せる時があった。それは、魔法を見ている時だ。兵士が魔法の訓練をしている光景にはいつも釘付けになって目を凝らし、ワクワクしているようにも思えた。


 だからこそ、魔法の訓練の時にはシャーロットに声を掛けるようにしていた。

 シャーロットが3歳の時だったろうか。殆どお願いをして来ない彼女が魔法の訓練に参加させてほしいと私にお願いをしてきた。彼女が何か頼んでくるのは非常に珍しい事でもあったので、気持ち的にはすぐにでも教えてやりたかったが、さすがに3歳は肉体的に未熟過ぎると感じた。反対に精神的には、不思議と教えても良いのではと思える自分がいた。親バカと言われるかもしれないが、話した時に自分と同年代くらいなのでは?と思ってしまうくらいに精神が成熟しているように感じていたのだ。

 

 それから2年ほどが経ち、すくすくと体も育ち、基礎の第1位階魔法くらいは教えても良いのでは?と思えるくらいに成長してくれた。魔法は危険な物でもあるが、聡明な我が子であれば悪い使い方はしないだろうという信頼と、自衛の手段は早くから持っていた方が良いと考えた為、兵士との訓練を終えたタイミングでシャーロットに声を掛けてみた。


 すると、普段大人しい彼女がやりたいと声を大きく発するのを見る事ができた。一通りのお手本を見せ、シャーロットにやってみせるように言ってみた。当然、できるはずがないと思っていた。城塞都市の領主ではあるが、戦士としても1流の自信がある自分の初めての練習を思い返してみても、魔力の外出しに2か月、ある程度形作るのに2か月、固定できるのに2か月掛ったのだ。簡単にできるはずがない。案の定、シャーロットはうんうん唸りながら首を傾げ、苦戦しているようだった。


 しかし、そう思うも少しばかりしてから、シャーロットが目を閉じてから、その表情と雰囲気が一変した。

 目を閉じたシャーロットからは一流の達人が持つ特有の覇気を感じた気がした。近くに立っているだけなのにシャーロットの存在感が肌を突き刺すように感じるようになり、ピリピリとした空気を感じるようになった。さっきまでは隣に居たのは可愛い我が子だったが、どこか遠い存在になってしまったようにも思ってしまった。まるで、国王と向かい合っている時と同じ感覚のようだった。自分が感じている事が自分でも信じられず、思わず、瞬きをする。


 瞬間——、シャーロットはそのままゆっくりと杖を握った腕を上げ、呪文を唱えた。すると間もなく、白い靄が発現したのだ、それは紛れも無い、魔力であった。紛れもない魔法発現の第一現象、魔力の外出しである。そして、それだけで終わらず、まさかまさかだが、剣の形状に作り上げていった。これだけでも異常事態である。なんせ初めての発現だ。魔力を外出しできたとしても、そのまま維持すること自体が初心者には困難であるのにも関わらず、第二現象、魔力形成まで成し遂げたのだ。


 更に、話はそこで終わらなかった。

 剣の造形を変えていったのだ。白い靄で作られた剣の形は徐々に変わっていき、ついには、名匠が作り出したような見事に鮮やかな色合いをした剣に仕上げていたのだ。それは、輪郭がぼやけている通常のソードとは異なり、輪郭がくっきりとして、模様まで規則的に付けられていた。


 私は現実を認められない、夢を見ている気分にもなったが、剣は使わなければ意味がないという考え方を私は持っている。いくら見た目が優れていても通常のソードと切れ味が変われなければ、あのような形状に仕上げる意味がないのだ。だからこそ、娘にはメイル案山子を切るように指示した。その結末として、メイル案山子が真っ二つになるなんて、誰が想像できただろうか。


 この子にはとんでもない魔法の才能があるだろう。一領主に収まった自分なんぞ軽々と超えるような存在であろう。かわいいかわいい自分の娘ではあるが、ただ甘やかすだけではなく、この才能を潰さないように、しっかり磨き上げなければならないと強く思った。


 それにしても、1日でソードを発動できるなんて、何て我が子は天才なんだ。

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異世界芸術都市~芸術女王の都市造り~ @SaiOri

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