災厄の主

百三十

幕開け

暗闇のような世界を、真紅の満月が照らす。


そんな空に浮かぶ球体をぼんやりと眺めている、青年がいた。


彼の足元に限らず、地面からは紺色の小さな光が無数に立ち上り、深淵のような空に吸い込まれていく光景は、見る者が見ればとても幻想的で美しいと思うだろう。


だが実情は、そんな美しいものではない。

なぜなら、紺色の光全てが負のエネルギーなのだから。


『負のエネルギー』

それは生きとし生ける者に様々な


世界が破綻したことで自浄作用が消えた。それにより負のエネルギーは世界に充満し、この世界で生きていたもの全てが狂ったのだ。


人類などとうの昔に淘汰され残ったのは強き獣のみ。

それらも数百年ほど前に、青年―――キリヤの手で1匹残らず消されてしまった。


彼は神の悪戯によってこの世界にきて、常に、たった1人で負のエネルギーを浴びてきた。


狂わない、はずがなかった。


最後の獣を消してから、いつまでたっても変わらない満月を眺め続けている。


だが、彼を取り巻く環境の転機が訪れた。


不快な耳障りな音と共に、景色が崩れ始めた。


世界の歪み。


キリヤの正面に穴があいた。その先は真っ白で見通すことができない。


意思のない黒目が漸く、穴に向けられる。


そしてそこに向かうのが当たり前かのように歩き始めた。


伸びきった黒髪が轍のように地面を這いながら後を追う。


そこを潜る瞬間、口元には歪な笑みが浮かんでいた。






神に見放された、崩壊世界の1つ『ゼルフォール』。

そこにいた最後の住民が、たった今その世界から離れた。

しかし、終わった世界は消滅することなくただ在り続ける。





そして新たな世界で、







キリヤは、












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災厄の主 百三十 @Jindodosuko

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