ナタデココは発酵食品

 最近、あいつときたら、夜空を見てしんみりしていることが多くなった。


 何があったのだろう。


 そして、ときたま、思いつめたように向かう「魔物の村」。


 マブダチだったはずのメディとも、なんか関係が微妙になっているような。

 いや、会っているときは仲良さそうなんだが、そのあと一人きりで落ち込んでいるような感じ。

 俺が話しかけても、なんか作り笑顔みたいなのが返ってくる。


 魔物の村では、なんかへんなものが組み立てれている。


 8本の杖に囲まれた、幕屋のようなもの。


 それを見ては、やっぱり落ち込んでいる。



 ……いやまあ、知ってるんだけどさ。落ち込んでいる理由も、へんなものの正体も。


 こういう時って、やっぱりなんか喜ばせることが必要なんだろう。

 あのお約束がまだ有効であるなら、俺があいつを喜ばせることをすれば、喜ばせることができるだろう(←トートロジーにしか聞こえないが、そうなのだ)。


 そうだ、あの時食べた、というかデートのテンプレ通り食わされた、アレを作ってやろう。


 材料は、カティール、あとナタデココがあればいいんだ。


 ……はて、ナタデココって何からどうやって作るんだ? ザガリスタのカフェまで行って聞いてくるか?

 遠いな……、いや、そういうところに手間をかけてこそ喜んでもらえんだよな、でも遠いな。


 困り果てている俺に話しかけるものが。


「ダーリン、何してんよ?」

「なんだお前か」

 もはやコイツにちっともびっくりしてない自分がむしろ恐ろしい。


―――――†―――――


「そおねえ……しょおがないもんね、これは最初からわかってたことじゃん?」

「お前はへびのように冷たいなぁ。俺は、最後までエグゼルアにいてよかったな、と思わせたいんだよ」

「それで? 二人の思い出のスイーツをもお一回再現したい?」

「たしか、このへんでカティールは出るんだろ?」

「うん、浴びるほど。あと、ナタデココのゲンリョオのココナッツはこのへんになっているんよ」

「魔物に原料を教えてもらうとは……」


 それで、ココナッツを収穫してきたはいいが、

「で、どうすんだろ」

「どおすんだろね」

 ノープランだった。


 困り果てている俺に話しかけるものが。


「ナタデココは発酵食品よ」

「あ、ハッコオ……前もいってたヤツね」

「……ていうか、サプライズ下手かよ」

 そいつは、俺に冷たい視線を送る。


―――――†―――――


「微生物といっても、いろんな種類があるわ。カティールを作り出す微生物が、ナタデココまで作ってくれる保障はないけど」


 カティールの水脈の近くの土を掘り返してみる。

 香ばしい匂いが辺りに広がる。水が泡立っている様子が見える。


「これは、今まさにカティールが発酵しているところじゃないかしら」

「それはいいけど、そのびせいぶ……ちっちゃいおじさんとやらは見えないな」

「おじさんて……人の形じゃないし、すごーく小さいのよ」

 

 こいつ、元の世界でどんな知識を仕入れているか知らんが、なんか詳しい。悔しい。あ、そうだ、こっちにはエディルがあるじゃないか。これでそのちっちゃいおじさんの正体とやらを探ろう……早速、トゴリーティスを起動、エディルで触れると……何も表示されないぞ。 

 その時、エディルに「倍率」というメニウがあることに気づく。


 倍率を最大にすると、なにかが表示された。


≪アスペルギルス・カティリゼは、土中の常在菌。土自身と反応して人体に有害な物質を≫

……タップして次のページへ

≪除去し、カフェインを生成する作用をもつ。この菌がある土壌の湧き水からはカティー≫

……タップして次のページへ

≪ルが析出される。また、この菌が常在する土壌は、アセトバクター・キシリナムも豊富≫

……タップして次のページへ

≪に含む。≫


 最後のページ情報量すくなっ。戻ってやる。ん? アセトバクター・キシリナムのところだけ、文字の色が青い。下線も引かれている。

 触れてみる。


≪フィルタ条件:アセトバクター・キシリナム≫


 ふぃるた?なんだかわからなんが、エディルを起動したまま、トゴリーティスで周囲を見渡してみる。


 すると、近くに咲いていた花のところに印がついている。印を触れてみると、


≪アセトバクター・キシリナムは好気性の真正細菌であり、酢酸菌に属する。糖類から食≫

……タップして次のページへ

≪物繊維を生成することが可能。ココナッツを発酵させナタデココを生成する。アスペル≫

……タップして次のページへ

≪ギルス・カティリゼと共生関係にある。≫


 見つけたぞ。この花にちっちゃいおじさんがいるんだな。よし、これを使ってナタデココを作るぞ。


 あれ、ココナッツとその花を同時にトゴリーティスに映し出したら、


≪底の広い容器にココナッツ果汁を入れる。アセトバクター・キシリナムを添加して、約1≫

こいつ、レシピ機能もあるのか……お、1日でできるのか。1時間かな?タップして次のページへ

≪6日間でナタデココになる。≫

 切るとこ!


「16日もかかるのかよ。その間に、お空のアレとアレとアレがぴーーとなったらどうするんだ……ていうか、これならザガリスタに行って食ったほうが早……」

 うわ、こんなときに持病の考えていたことが口に出てしまう病が発症。あーあ、これでまたこいつはしょんぼりし……てないぞ、むしろ、デートの時と同じような笑顔。

「ありがとうカギン! 私、これが固まるのを楽しみにしてるわ。もし、その前に『その時』になったら……ねえメディ、これくらい一緒に転移できるでしょ?」

「え、ええ、まあね、ツェノイにカクノオできる大きさだから」

「じゃあ、お土産で! もし『その時』の前に完成したら……3人で食べよ!」


 その顔は、作り笑顔ではなかった。あのお約束、まだ有効だな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

エクゼルア美食事情 @hoge1e3

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る