魔物への忖度あふれるBBQ

 やあ、僕はイサキス、マジック・ローダーの一人だ。詳しいことは本編を見てほしいけど、なんだかんだで僕ら3人は今、エグゼルア最大の町、ルカンドマルアに来ているんだ。


 僕らマジック・ローダーの役割は、みんなが持ってきた杖に魔法を『呪胎』させること。そうすると、みんなが魔法を使えるようになる。

 不思議なことに、呪胎ができる人間は、世界で6人しかいなんだ。だから、僕らは人気者なのさ。ほら、お客さんが来た。


「カルザーナ様、フィレクト下さい!」

「こっちにも下さい、カルザーナ様!」

「あとサガムも下さい! カルザーナ様」


 ごめんウソついた。人気があるのはカル様ばっかりじゃんか……彼女は僕の憧れの存在。攻撃魔法なら何だって呪胎できるからね。人気があってうらやましいな、といいたいのだが、本人はなんかひきつった顔してる……負荷が集中しすぎているからだ。「お前が攻撃魔法をろくすっぽ呪胎できないから」という冷たい視線がこっちに来る……冷たいを通り越して痛い。

 あと、探索系の魔法が得意なアシジーモは、町の城壁まで連れられて行ってレディウスという魔法を呪胎させられている。あの魔法は侵入者の発見に使うもので、据え置き型だから1回当たりの報酬はでかい。

 


「俺は結局、レディウスの設置1件だけで10000バクスだ」

「あら、そんな大そうな案件でそれだけ? 私はフィレクトが12本、ウィリュムが16本、サガムが25本、あとアシュタとかガートアミとかラドワミとかが数本ずつで……しめて55535バクスね……で、イサキスは?」

 カル様ぁ、そんなこわーい顔で見ないで。

「……あのぉ、僕はごくたまに防御の魔法を呪胎してくれって言われたけど、なんか、ここの住民は『攻撃は最大の防御』が共通認識みたいで、ほとんど売れな……ぐふぁ」

 カル様必殺の平手打ちが炸裂。

「言い訳はヤメと、この前も言っただろう!」

 物理的に痛い。

「ふん、ツェデでも呪胎してほしいなんて物好きはいなかったのかよ」

 アシジーモまでバカにしてきて。僕のことはいいが、僕の大発明をディスるのはやめろ。

「アシジーモ、お前も私の売り上げには遠く及ばないでしょ、二人で行ってきなさい」

「行ってこい……て?」

「今晩の食事よ。この様子では、町の中ではゆっくりできない。あの墜落現場あたりに宿営でも建てることにしよう。食料だけは市場で調達してきなさい」



 そんなこんなで、僕ら男子2人は、女王カル様のご命令で、ルカンドマルアの市場にやって来たのだ。この混乱で、町の食糧は高騰していたんだけど、まあ売り上げはいっぱいあるから、みんなの分含めてたくさん買ってやる。まずは肉だ肉!


 市場の肉屋に行くと、おやじがテンション高めだった。

「森の中から、でっかいドラゴンの死骸が見つかったんだ。まだ肉は新鮮だから持っていきな!」

 おおー、見るからにうまそうなドラゴン肉! 

「これ! これ下さい!」

「おいイサキス、これはダメだ」アシジーモに止められた。

「えー、なんでこんなにうまそうなのに」

「いくらなんでも、カギンのツレの前で、ドラゴン肉を食うのはどうかと思う……おいおやじ、他の肉はないか?」

 ああ、あいつ、いつも青いドラゴンに乗って移動してるんだっけ。


「なんだ、こんなレアなドラゴン肉をいらないなんて……じゃあ、これはどうだ」

 次におやじが出してきたのは、立派なコカトリスの肉だった。

「おわー、このトリニクもうまそうだな、アシジーモ、これにしよう!」

「ダメだ。なんかあの変な機械を操っていた魔物……あいつどう見ても鳥人だっただろ。こんなん持っていったらブラックユーモアでしかないぞ」

「そうか……」

「なんでぇお前ら。マジック・ローダーだからって贅沢ぬかしやがって。そんな贅沢なやつには、あとこれしかねぇ!」

 出てきたのは、ミノタウロスの肉だ。

「こいつは……年に1回だけ選ばれる、特に美味しいとされるミノタウロスだ。奴らの間でも、これに選ばれて死ぬことが最高の栄誉だと噂されているほどだ」


「アシジーモ、これならいいよ! 牛肉なら該当者いないよね!」

「そうだな……おやじ、これ、いくらだ?」


「特別に美味しい肉だからな……MAX価格の65535バクスだ!」

「えーー! そんなん、カル様の稼ぎが全部ふっとぶじゃんか!」

「おやじ、もうちょっとマケてくれないか?」

「何言ってやがる。ただでさえ食糧不足なのに、ふてえヤロウだ。」

 といって、僕らはおやじとしばらく言い争いになった。



「遅いぞ! 何をしている!?」

 言い争いは、しびれを切らしたカル様がやってくるまで続いた。


「ふーん、マケてくれないのね……いいわ。じゃあ明日から、町のみんなに呪胎してあげないから」

 それを聞いたおやじはみるみる顔が青ざめて、

「カルザーナ様……それは困ります! あなたの魔法だけが頼みの綱なんですから!」

「……わかったようね。じゃあ、ミノタウロスの肉、32767バクスでいただくわ」

 なんと半額! さすがカル様、ていうか僕らがザコすぎ。


 その後、果物や野菜なども調達し、結構な荷物になった……が、もちろん僕ら男子二人が全部持つはめになり、例のうちゅーせんの近くでみんなでBBQをしたのだ。その様子は本編にて!

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