本屋で✕されたのは僕の弟でした。

コタツ

第1話

 本屋で✕されたのは僕の弟でした。


 8月。俺は高校生活にやっと慣れてきたところなのに、もう夏休みが来てしまった。近くの公園では夏祭りをしてるらしい。

 外が妙に騒がしい。そんな楽しそうな声を横目に、俺は机に座って勉強している。今年は受験だ。志望校がなんせ名門で受かるかどうか怪しいところだ。


 下からすごい勢いで何かが階段を登ってくる音が聞こえた。この元気な感じ、聞こえる息の音、2階の廊下に差し掛かって、走る音に混じるカタカタと何かが揺れる音。お面を頭の上に付けているらしい。お面なんか付けて、こんなに元気なんて。うちの弟くらいだ。


「ねぇ !兄ちゃん見て! 金魚!」

「おぉ。すごいな。」

「全然思って無さそうだよ!」

「よしよし。本当に思ってるよ。それより手洗っておいで」

「はーーーい!」


 やはり凄い勢いで階段を降りていく音が俺の部屋に残った。俺は急に静かになった部屋と、そのお祭りのガヤガヤした音にエモさを感じながらも、参考書を開いた。


 さて、受験勉強に移るか。


 12月。クリスマスの時期。俺は弟と一緒に街へ出ていた。弟ははしゃぎ、それを俺は微笑ましく眺めていた。そこら中にカップルやら、夫婦やらが散乱していて、ツリーを横目に、某チキンを買いに店に並んでいる人も多くいた。


「本当の自分を見失うな」


 人ごみに紛れて俺は微かにその声を聞いた。振り返るが、あまりに人が多いために誰が何を言ったかなんて分からない。すると弟がはぐれかけたので、小走りをしながら弟が向かった先に、トコトコと着いていく。


 荒木古書店。なんだ?弟は古書になんか興味があるのか?とセルフボケをかましていると、弟は泣き出した。何故かは分からない。古書店の奥にあった大きな鏡を見て。弟は泣き出した。


 その時、弟はなぜ泣いていたかなんて予想もつかなかった。


 2月。俺は受験を終えて一段落着いていた。受かっている自信しか無かった。俺は地域的にも有名な名門私立に通える。と、幸せに満ちていた。


 3月。弟は死んだ。いや殺された。荒木古書店で。俺は復讐を決意した。

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