7話 仲間と秘密は約束と共に
2016年 7月23日 PM 19:40
国名/ジナド
州/ノースウィリアクリムルーズ フォレストシングソン
場所/ブリーム建設株式会社
季節/夏
ジナドの空は綺麗な鉄紺色をしていた。
街は少し明るいが、この建物周辺は何処と無く暗い感じがした。
ブリーム建設株式会社の周りには、高級感がある黒い車が複数台止まっており、
タキシードを着た図体のデカい人が、何人か歩道に立ちながら、タバコを吸っていたり、スマホを見ていたり、仲間と会話していた。
そんな中、場違いと思えるような格好をした女の子が1人。
小柄な身体と腰まで長い髪、服は少しぶかぶかした黒いTシャツを着た女の子。
その女の子は俺に話かけてくる。
「き、キリルさん、無事に戻って来て下さい。な、何があっても私はキリルさんの味方です」
「あぁ、ありがとう」
俺はフィルナに背を向けて、ブリーム建設株式会社の中に入る。
リーダーが本当に、あの笑うマスク野郎に俺の情報を売ったとしても、助けてくれている仲間がいる事に気づいた。
もしかしたら、みんな俺の事を売ったのかもしれないと思ったが、フィルナが知らないのでその可能性は低いだろう。
そもそも、3年くらいの付き合いになるリーダーが、そんな事をしていると考えたくはない。
ーーーーーーー
2016年 7月23日 PM 16:20
ここに来る前、フィルナが泣きやんだ時だった。
「話を聞いてくれないと進まないのだが、いいかフィルナ」
「ううぅ、はい。ず、ずびばぜん。ば、ばやどぢりで」
フィルナは1時間くらい涙と鼻水を流していた。
鼻水はフィルナの長い髪につき、声はまだ鼻声だった。
フィルナの髪についた鼻水をティッシュで拭おうと髪を分けた。
久しぶりにフィルナの顔を見た。
目の下の隈は酷く、淡藤色の死んだ様な目。
隠された肌は白人ほどではないが白く、とても綺麗だった。
フィルナもちゃんとしたら、そこそこ可愛いと思う。
何故、人を避けていたのかわからないくらい。
髪を拭い終えたので、本題に戻ろう。
「単刀直入に言えば、俺はリーダーに、自分の情報を売られたかもしれない」
「うぇ、ぞ、ぞうなんでずが!」
髪のせいで目元が見えないが、とても驚いていると思う。
組織の中で2番目に入った日が浅いが、リーダーの事は結構慕っていた。
この考えは俺の憶測だけのことだし信じたくはない。
リーダーの優しいお節介が、裏目に出たと信じたいくらいだ。
「な、なんで……」
「フィルナが買い物に行った後、変な笑い方をするマスク野郎がこの部屋に現れたんだ」
「へ、変な笑い方をするマスク野郎?」
「あぁ、敵と言っていいかよくわからないやつだった」
最初は敵だと思ったが、勧誘してくる割には、強引に誘拐したりしてこないし、むしろ今回のオークションの情報をくれた。
だが、マスク野郎は変な笑い方はするし、価値観が俺と少しズレていて、その仲間は明らかに危ない。
マスク野郎もその仲間もまだ何考えてるのか分からない今、常に警戒した方が良さそうだ。
「マスク野郎は俺を勧誘するために現れたんだ。それで、マスク野郎と話したんだが、何故か俺の事を少し知っていた。問題はマスク野郎が知っていた事の中に、リーダーにしか言ってない事があったから、もしやと思ってな」
「り、リーダーが、本当に……」
「あいつらがどこから俺の情報を手に入れたか知らないが、もしそれがリーダーだったら、俺は脱退しなきゃいけない」
「き、キリルさん。そ、その情報って、なんなのか聞いていいですか?」
ここまで言ったら気になるよな。
フィルナならきっと政府に捕まらないだろう。
だが、言いふらされると弱点になってしまう。
嘘の情報を掴ませられたり、裏切られたり、政府に売られたり。
復讐をしようとしている者は扱いやすい。
視界が狭く、それを果たすために行動する。
今でこそ平常心をもって行動しているが、昔の俺ならさぞ扱いやすかったことだろうか。
「フィルナ、言わないと誓うか?」
「も、もし、わ、私がキリルさんの力になれるなら教えて下さい。わ、私が今ここにいるのは、キリルさんのおかげですし、絶対に裏切る様な行為はしません!」
フィルナにこの事を伝えた理由はたった1つ。
家族を殺した奴を見つける時に、相手を地の底まで追いかけるためだ。
自分の身勝手な理由で、フィルナを巻き込もうとしているのは分かっている。
罪悪感はあるが、家族を殺した奴は許せない。
印持者だからって、差別して迫害したり、研究のモルモットにするような奴らもだ。
「俺は、お前を利用することになる。それでもいいか?」
「は、はい!」
俺の家族を殺した相手を探し、復讐することを伝えた。
復讐するために、フィルナの能力が必要なことを伝えた。
フィルナはそれを聞いて、安心した表情をしていた。
「キリルさんが、想像してたより普通の人間っぽくて、ちょっとほっとしました」
ーーーーーーー
絶対に探す、どんなことがあっても。
世界を必ずしも平等に、平和にすることなんて無理だろう。
だから、1人ずつ消す。
エレベーターの方に行くと、ペストマスクをつけた人間が立っていた。
マスク野郎……
異界の印は運命と共に @Yukimura1104
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