第10話【杭州から来た男(一)】
妖怪にしろ
一方で、そういった類のものが何がしかの問題をおこしておれば、きちんとかかわるのが
したがって俺にはあの
また悪さをしていてはかなわぬので、はじめの数年はひそかに様子を伺いに行っていた。
すると、思いのほか村人の
次に様子を見に行こうと思いついたのは四十年ばかり経ってからだった。
人の世の基準に照らせば責任を果たしたとは言えないかもしれない。
とはいうものの、老いを知らぬ
四十年ではまだ、あのころの者で生きている者が多くあるだろう。
もう十年経ってからでも良いぐらいだ。
さいわい場所は村はずれだ。
ひそかに行けば、村人に知られず、木の様子だけを見て帰ることができるのは、よく知っている。
はずだったが、遠く
もともと
見通しが良くなったので、
木には、むやみに
道幅は大いに広がり、四十がらみの男が、街道を行く人を呼び込んでいる。
あまりの変わりように俺は呆れた。
ひそかに近づくなどこれでは無理だ。
夜中に出直すか、目くらましでもすれば見つかるまいが、見えるところまできておいてから、逃げ隠れしても仕方あるまい。
それに状況を詳しく知りたい。
おれが
「一体あの木はなんだ」
男は
「
「いや、けっこう」
いつの間にか、知らないご
この様子だと、俺が知っている以外の
おれは歩きながら木を
はたしてこれは村人たちが、世代を重ねるうちに話に
「ご
「参拝するつもりはない」
男が食い下がるが、なるべくきっぱりと答える。
あいつに参拝などしてたまるものか。
近づくと、
どうするのかと思ってみると、どうやら木の根元に
「あの撒いているのはなんだ?」
「ありゃ酒醸(あまざけ)みたいなもんだ。とはいっても、旦那、飲むには勧めねえからよしときな。あの男が村中の
「そんなものをなんで
「前から
「ほう。それは面白くないな」
「そうなんだ。うちのご
どうにも具体的な指摘だ。
「それだもんで、ちっとばかり
「なるほど、そりゃあ許せん」
男の話に
この村ではもはや、夢に
どうもあの
「それであの男がね。あれは実は最近居ついた
「つまり何を思いついたんだ?」
「つまりよ、よそ者に酒を
元より話し好きなのか。ご
「この村では、
「よくあるとも。良いことを聞いてくれた。
「そのご
「そう見えるかもしれないが、本当にご
勝手ばかりではないということだろうか。人と関わるにしては、差し出がましすぎるようにも思うが。
あいつの場合は人どもにずいぶん世話になっているようだから、持ちつ持たれつのつもりなのかもしれない。
「面白い話だった。ありがとう」
銭を三枚ばかり渡すと、男は、わっと驚いた顔をした。
「こんな話でこんなにいいのかい。悪いね。そしたらあの木がご
「ああ、いや、それは」
聞かない方がいいような、どんなおかしな話になっているのか知らないでいるのも
ちらちらとこちらを振り返りながら山を上っていく様は、いかにもこそこそ逃げ隠れしているという様子である。
呼び込みの男はその様子を見て、なんだあいつ、なにをやっているんだ、と言った。
いかなる次第で逃げるのかはわからないが、俺の他は
志怪小説 ニ羽 鴻輔 にわこうすけ @K_Niwa
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