F

@SO3H

F

変数xの値が決まるとそれに対応してyの値がただ1つに定まるとき、yはxの関数であるという。yがxの関数であることを、function(関数)の頭文字を用いてf(x)と表す。



----------





俺と克己は幼い頃から一緒だった。

俺の感情も行動も全て、克己次第で一意となった。


y=x


克己が怒れば怒った。克己が喜べば喜んだ。

克己が泣けば一緒に泣いて、克己が好きなものは俺も好きになった。

大人たちは俺たちをいつも2人セットで認識していた。俺はそれを嬉しく思った。克己がそれを嬉しく思っていたから。


y=x+a


克己は皆に頼られた。俺は克己の相棒として、皆に頼られた。

克己の指示の通りに動き、克己の出来ないことをやり、克己に認めてもらうために学び、隣にいるために他と競った。

俺の世界は、克己で決まっていた。



y=-x


克己が怒ると嬉しくなった。克己が喜ぶと悲しくなった。

克己が泣くと笑い、克己が好きなものは大嫌いになった。

だってその頃には、克己の隣には俺よりずっと克己と共に怒り、喜び、泣いて笑う人がいたから。



y=……


克己がいない世界で、俺は何を見て怒り、喜び、涙し、笑えば良いのだろう。克己を失っても肩を落とさず気丈に振る舞う彼女を、どんな感情で見ていいのかわからなかった。「彼女を頼む」と言った克己の言葉は、俺の気持ちを決めてはくれなかった。


φ

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

F @SO3H

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る