契約により手に入れた欲望を持ち合い、し好品のワインのように楽しむ悪魔たちの品評会。そこである日最高品質とされたのは、とある少女の魂だった。
少女が悪魔と契約してまで叶えたかった欲望は、悪魔の力を利用してでも叶えられるはずもない切ない願い。だが少女がそのために悪魔に求めたのは「ただ見ていて」という小さなものだった。
もっとうまくできるのではないかという大人の思惑とは外れた、少女だからこそ無知で無謀で無垢な願い。大層な夢を持っていながら、ちょっとした後押しが欲しいからと悪魔と契約する少女のいじらしさ。そのために少女は最後に死んでしまうのだけれど、だからこそ美しい願いだと思いました。
人間の魂から抜き取った『欲望』を飲み比べる悪魔たちの品評会、そこに提出された『夢』。そんな不思議な設定から、この物語は一気に読者を引き込みます。そして現れてくるのは一人の少女。彼女の『夢』は純粋な子どもの『夢』で、ただひたむきで、だから少しばかり、理解を超えている。悪魔はそんな『夢』を、ただ見ているだけでいいと告げられ、困惑しながらも、なぜか少女に惹きつけられていきます。『夢』と『欲望』の差とは? 少女はなぜ悪魔を呼び出したのか? 少女は何を考えているのか? 悪魔は何を思っているのか? 様々な疑問を抱かせながら、いかにも悪魔的なアンチクライマックスで幕を閉ざすやり方は、鮮やかで圧巻です。ほんの数分の内に一生分にわたる白昼夢を見たような読後感。幻想的で、悪夢的で、一度読めばもう忘れられません。この奇妙な味を、ぜひとも味わってみてください。