5分で読書短編コンテスト。私の主が今日、降臨します!

渋谷かな

第1話 「5分で読書」短編小説コンテスト 私の主が今日、降臨します!

「おはよう。」

 返事は帰ってこない。

「・・・・・・。」

 僕は朝、目が覚めて、布団を畳んでも、歯を磨いても、トイレに行っても誰かに見られているような気配を感じている。

「おはよう、母さん。」

「おはよう、今日も学校がんばってね。」

 制服を着替えて家族のいる食卓に行く。親と朝の挨拶をかわし何も変わらない日常を送っているが、いつも誰かが側にいるように感じている。

「行ってきます。」

「いってらっしゃい。」

 僕は学校に向けて出発した。


「おかしいな。誰かに見られている気がするんだが?」

 信号を待っている時も誰かの視線を感じて仕方がない。

「うわあ!? 危ない!?」

 考え事をしていた僕はうっかり車に引かれそうになりバランスを崩して倒れ込む。

「おかしい!? 何かがおかしい!?」

 さすがのマイペースで呑気な僕も車に引かれて命を落としかけると、得体の知れない気配のことを真剣に考えながら通学路を歩き始めた。

「まさか!? 僕は呪われているのか!?」

 5分ほど考えた僕の結論だった。

「大正解!」

 その時、女の子の声が後ろから聞こえた。  

「え?」

 僕は声のした後ろを振り返ってみた。

「ヤッホー! やっと会えたね!」

 そこには小さな女の子が笑っていた。

「うわあ!?」

 思わず僕は腰を抜かして驚いて地面に尻餅を着いてしまう。

「思いが通じるのに5分もかかるなんて、なんて罪な奴なの!」

 女の子は笑っていたと思ったら不機嫌になる。

「き、君は誰!?」

 僕は女の子に尋ねてみた。

「内緒!」

 笑顔で答える女の子。

「はあっ!? なんじゃそれ!?」

 女の子は名前は名乗らない。

「お嬢ちゃん、お父さんとお母さんが心配しているから、早くお家に帰ろうね。」

「お父さんとお母さんはいないよ。」

「ええー!?」

 どうやら女の子には両親がいないみたいだった。

「お父さんとお母さんは夜空のお星さまになったの。会いたいな・・・・・・お父さん・・・・・・お母さん・・・・・・クスン。」

 女の子は亡くなった両親を思い出し涙を流し始めた。

「うわあ!? ごめん!? 変なことを聞いて!? 泣かないで!? お兄さんが悪かったから!?」

 僕は慌てて女の子に謝る。

「うえ~ん! うえ~ん! うえ~ん!」

 しかし、女の子は本気で大声で泣きだした。

「困ったな!? どうしよう!? 僕は学校に行かないといけないのに!? まずい!? このままでは遅刻してしまう!?」

 僕は学校の登校時間と謎の女の子の板挟みになって困ってしまう。

「ん?」

 その時、女の子が泣き止み僕のズボンを引っ張る。

「大丈夫、私の姿はお兄さんにしか見えないから学校に行こうよ!」

 ニコッと満面の笑顔で微笑む女の子。

「んん? 僕にしか見えない?」

 一瞬、僕の時間が止まる。

「ええー!?」

 何かの答えが出た僕は大声で絶叫する。

「ま、ま、ま!?」

「まがいっぱい!」

「なんでやねん!?」

 思わずツッコミを入れる。

「まさか!? お嬢ちゃんは幽霊!?」

 僕は女の子を幽霊だと思った。

「ちょっと違う! 正確には守護霊です!」

「守護霊!?」

 女の子の正体は守護霊だった。

「はあっ!?」

 僕は女の子が守護霊と聞いて、あることに気がついた。

「ということは!? いつも僕が感じていた不思議な気配の正体は!?」

「あたしだよ。」

 女の子は満面の微笑みを浮かべる。

「大正解! ドンドン! ピュウピュウ! パフパフ!」

 何一つ悪びれる様子もなく一人お祭りで笛を吹き紙吹雪を舞い散らせている。

「やったー! って、喜べるか!?」

 僕は冷静に現実に戻る。

「僕が小さい頃から感じていた違和感はおまえの性か!?」

「そうだよ!」

 僕のパニックとは真逆に女の子は喜んでいた。

「じゃあ、僕が服を着替えている時も?」

「いたよ。」

「じゃあじゃあ、僕がトイレに行った時も?」

「いたよ。」

「じゃあじゃあじゃあ、僕がお風呂に行った時も?」

「バッチリ見ました!」

「ギャアアアアー!?」

 僕の裸は女の子に全て見られていた。

「布団におしっこをした時もいたよ!」

「なぜそれを知っている!?」

「他にピーマンとニンジンが嫌いなのも知ってるよ!」

「もう言わないで!? 許してください!?」

「テストの点数が名前の書き忘れで0点だったのも知ってるよ!」

 女の子は僕のことは何でも知っていた。

「ウギャアアアアア!?」

 僕にとどめを刺してくる。

「守護霊なら僕を、そういう危機から救ってくれ!?」

「それは無理!」

 珍しく女の子が否定した。

「守護霊は命の危険がある時は救ってもいいんだけど、それ以外は見守ることしかできないの。」

 守護霊にも制約があった。

「あ!?」

 僕は何かを思い出した。

「それじゃあ、さっき僕が車に引かれそうになった時に助けてくれたのは、もしかして?」

「あたしだよ!」

 なんと僕が車に引かれそうに死にそうになった時、僕の体を後ろに引っ張ってくれたのは守護霊でもある女の子だった。

「大正解! ドンドン! ピュウピュウ! パフパフ!」

 いつものように女の子はお祭り騒ぎをして楽しんでいる。

「ありがとう。助けてくれて。」

 素直に僕は助けてもらったお礼を言う。

「どういたしまして。」

 女の子は嬉しそうに笑い返してくれる。

「私も嬉しいよ。」

「え?」

「私がいることを信じてくれたから、私を見ることができるようになったんだよ。今までも、いつも背後で応援していたんだから。」

 僕の知らない所で女の子は僕を守って応援してくれていたことに初めて気づいた。

「そっか、そうだったんだ。いつも僕は守られていたんだ。」

「その通り!」

 僕は女の子の存在を認識しただけで女の子に親近感や信頼の様なものを感じ始めた。

「あのさ・・・・・・これからもよろしく。」

 僕は女の子に手を伸ばし握手を求める。

「それは無理!」

 しかし女の子は握手を拒否する。

「え? ええー!? なんで!?」

「私はあなたの守護霊じゃないもん。」

 なんと女の子は僕の守護霊ではなかった。

「なんですと!?」

 まさかの大どんでん返し。

「じゃあ!? なんで僕のことを守ってくれたんだよ!?」

「私の主の命令です!」

 女の子には主がいたみたいだ。

「主?」

「そう私の主です。」

「う~ん? 話がよく分からなくなってきたぞ。」

 僕は頭の中を整理する必要があった。

「どうして主さんは僕を守ってくれるの?」

「あなたのことが好きだからです!」

「はあっ!?」

 まだ恋をしたことがない僕にはよく分からない理由だった。

「主はあなたにに初めて出会った時に命を助けてもらいました。」

「僕が命を助けた?」

 僕の記憶には人助けをした記憶は残っていない。

「そして一目で恋に落ちました。しかし主はお父さんの仕事の関係で引っ越すことになりました。」

「ほうほう。」

「しかし、主は「今度は私があの人のことを助けたい!」とあなたのことを思うだけで優しさ、トキメキが溢れて、守護霊である私を生み出しました。」

 女の子誕生の方法である。

「守護霊って、そうやって生み出すんだ。」

「ツッコム所はそこですか?」

 僕の感性と主の恋心には多少のズレがある。

「それからというもの、私は主のためにあなたに寄って来る女という女、メス豚どもを遠ざけていったのです! スゴイでしょ?」

「僕が女にモテなかったのはおまえの性か!?」

「大正解! ドンドン! ピュウピュウ! パフパフ!」

 一人お祭りを始める女の子。

「あのな!」

「怖い!? か弱い幼女をいじめないで下さい!?」

 僕は女の子を睨みまくった。

「馬鹿馬鹿しい! どうせ呪いをかけるなんて気持ち悪いデブのブサイク女なんだろう。僕は学校へ行く。話に付き合って損したぜ。」

 不貞腐れて僕は学校に行くことにした。

「ふっふっふっ。」

 不敵な微笑みを浮かべる女の子。

「ご主人様は私を通して、あなたのことは全て知っています。あなたの女性の好みもね。そして私の主が今日、降臨します!」

 女の子は最後はかならず私が勝つと言わんばかりに最後のセリフを言い切った。


「どうもすいません。」

「廊下に立っていろ!」

 結局、僕は学校に遅刻して先生に怒られた。

「はい。」

 僕は廊下に立たされた。

「やっと会えましたね。」

 見たこともないきれいな女の子が立たされている僕の横を一声かけて通り過ぎていく。

「え?」

 僕はその一瞬で心を奪われた。

「今日は転校生を紹介する。入れ。」

「はい。」

 きれいな少女は教室に入っていった。 

 おしまい。

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