無理するな。

光希Side


冬休みが開けてすぐのとある日、昼休み。

「いただきまーすっ。」

そんな元気よく言いながら晴瀬はパンを頬張る。

「ん。」

私たちはおなかが空いていたので、購買でパンを買いに行き、戻ってから、私は自分の席に、晴瀬は隣の席の子の机に座った。

「……おいしい。」

とてつもない幸せのような言い方で晴瀬はそのパンを食べていた。

「じゃあ、一口ちょーだい。」

「あ、うん!」

晴瀬が買ったパンを一口貰った。そのパンは甘かった。

「じゃあ」

いつも通り晴瀬にも一口あげようとした。

「あ、今日はいい。ちょっと、自分の分だけでいい。」

「え、あ、そ、そう。」

私はビックリしてしまった。

「ねえ、光希。」

それぞれ黙々と食べていると突然晴瀬に話しかけられた。

「ん?」

「……うち、今日やばいかも……」

「だろうな。」

実は、見て見ぬふりをしていたのだが、購買から帰って来た時、晴瀬がフラフラとまっすぐ歩けていなかった。呻くような声も出していた。

「……いや、よくパン食べれたな。」

「おなかすいた。」

「え、体調悪いのに?」

「うん。」

……私、尊敬するぞ。

「早退するの?」

本当に体調が悪そうだからそう尋ねた。

「……この後英語と体育でしょ?」

「そうだね。言えば、先に英語の後体育だよ。」

「とりあえず英語だけは出る。」

「えー?大丈夫?」

「まあ、平気っしょ。」


本当はここで止めるべきだったのかな。




***





瑞央Side


「え、やっぱり体調悪いんだよね?」

「ようわかったな。」

「わかったもなにも……」

私は今、一番後ろの席だ。ということで英語の授業を真面目に受けずにクラスの様子を観察してみた。そしたら、明らかに体調が悪そうなやつがいた。

そう、同じ部活の晴瀬だった。普段、どんだけ眠い授業で、サボれる授業でも頭を前にして授業を受けているはずの晴瀬が今日は机に突っ伏してほぼほぼ授業を受けていなかったと言えるほどの姿勢だった。

珍しすぎたので授業が終わり、ロッカーに体操着を取りに行くときに、訪ねてみるとそう言われたのだ。

「いや、それで体育、できるん?」

「とりま、成績のためにやる。」

「えー、平気?」

「うん。」

「なんだっけ?」

「持久走。」

「それ、体調がわるいときにやるやつじゃない。」

「しらん。」

「というか今日、持久走って初めてじゃね?」

「せやね。」

「………晴瀬、やばくね?」

「晴瀬やばよ。」

「え、ちょっと。晴瀬の一人称ってうちか私でしょ。」

「晴瀬って緊急事態になると、一人称が晴瀬になるんだって。」

晴瀬に尋ねると、晴瀬じゃなくて、光希ちゃんが答えた。

「へえーってなんで光希ちゃんが知ってるの?」

「んー?糸音ちゃんから聞いたの。」

「ああ、そう。」

糸音ちゃんとは、私と晴瀬と同じ塾だった仲間でもあって、なおかつ晴瀬とは元々幼馴染らしくお互いの弱みを握り合っているようだ。それで、同じ委員会の糸音ちゃんと同じクラスの晴瀬の中間である光希ちゃんがお互いの弱みを知っているようだ。

「………晴瀬、保健室行くか、体育見学にしな?」

「いやだ。評価。」

「まあ、いいや。とりあえず、いこっか。」

「うん。」


この時、止めていたらよかったかな。




***




光希Side


「おー、おかえりー。」

「……ん。」

体育の授業が始まった。私は普段から陸上部の長距離のため、晴瀬を置いて自分の自己ベストを更新するためずっと一人で走ってクラスで三番目にゴールをした。

その後、晴瀬を待っていると、晴瀬はクラスで一番最後にゴールした。

「……これでも、一応少なめにしてもらったんだけどね。」

そんな言葉を晴瀬は呟いた。

「え、なんで?」

「遅すぎた。」

「ええ……」


そんなことを言っていると、授業が終わり、私たちは更衣室へと向かった。

ただ、そこで問題が起きたのだ。

「え、なんで部活に行く気なの?」

「今日だけいって、そこからずっと休みたいの。」

「はあ?」

そう、普段晴瀬にとってほぼほぼ行く気がなかったはずの部活に行くと言い張っているのだ。

「え、どうした?」

晴瀬と同じ部活の瑞央ちゃんが慌てて止めているが、どうやら今の晴瀬の耳には入っていないみたいだ。

「はあ。とりあえず、今日は帰りな。そして、明日からも普通に休めばいいじゃん。」

「ん……。」

「じゃあ、制服に着替えてね。部活着じゃなくて。」

「はい。」


晴瀬はしぶしぶながら制服に着替えて帰る準備をしてくれた。




***




瑞央Side


元々普通の人より赤っぽい晴瀬の頬がさらに赤くなっているような気がする。

「大丈夫?」

「うん。まあ、いま、帰り道だから。」

「でも、打ち合わせに巻き込んじゃったからさ。」

「ううん。」

晴瀬はそういいながら軽く微笑んだ。

そう、体育が終わった後、本当はすぐ帰れたのに、私たちのクラスの同じ部活のメンバーでとある打ち合わせをしていたら下校時刻ギリギリになってしまった。そこから同じ電車で、一駅差だけである私が晴瀬の様子を見ることになったのだが……

普段なら絶対座らない乗り換え後の電車で座っている。

「平気?」

「でも、本当に帰るだけだから。」

そういう晴瀬は本当に辛そうだ。

「まあ、頑張ってね。」

「ありがと。」

「じゃあ。」


私は手を振りながら晴瀬が載っている電車から降りた。




***




光希Side

次の日。晴瀬は学校に来なかった。

「平気かな……」

昼休みになってお弁当を食べているとスマホを見ていたらしい瑞央ちゃんが私の所にやってきた。

「光希ちゃん!」

「はい?」

「晴瀬、インフルAだって。」

「え。」

「でね、晴瀬にLINEしたら、朝39.8℃まで上がったみたいよ。」

「ええ。」


よく耐えたな、晴瀬。



後日……

「完全復活!」

「晴瀬、平気だった?」

「うん、まあ。でも、体調が悪くなった日はどうなるかって思った。だって、もう最寄りからフラフラしながら帰っててねw家着いて、体温を測ったら39.2℃だったんよ。」

「もう、無理しないでね。」

「うん!」



一年後、また晴瀬は同じような症状が昼から出たのに早退しないで、家に帰ったら38.3℃で翌日だけお休みだった。

それを二回ほどした。

「晴瀬、反省してよ~」

「はいはい。」

「だって去年も同じこと、あったでしょ?」

「確かにw」

「だから、体調の異変を感じたらすぐに保健室に行けって……」

「はーい。」

私が言っても晴瀬は全然反省してくれなかった。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

これ、実話です。なんなら私が晴瀬です。学校から帰ってきて39.2℃は頭がおかしくなったかって思いました。

本当、熱出ると無理したくなるみたいです。気をつけてくださいね(お前がな。)

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短編集 ゆう華@ありがとうございました @yuka_likes

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