「復讐」

「はい、夏休み明け早々だけど、転校生が来るぞ。」


小六の夏休み明け。

区切りの良い日のはずなのに雨。

そんな日、六年三組に先生のその言葉が響いた。


氷川ひかわ光希みつき、です。」


彼はニコっと笑っていた。

でも、何かを隠そうとする笑顔。

その顔にクラスの大半がなぜかほっとした表情をしていた。

ただ、とある少年だけは驚いた顔で光希を見ている。


「はーい、氷川さんは春野はるのの隣な。」


そういいながら先生はうたに指を指した。その指を見ながら光希の隣に来た。


「よろしく。」


詠は嫌々そうな声で挨拶をしたが、光希はペコリとお辞儀をするだけだった。




***




「氷川さん。」

「はい?」


 中休み。

雨で外に出れなく、普段であれば静かになる教室もたくさんの児童で埋まっていた。

そんな中、詠は光希に話しかけると光希はか細い声で返した。


「さっき先生が苗字だけ言っていたけど、僕は春野詠。まあ、僕と絡むとろくなことがないから、何とも言えないけど、先生に学校案内を頼まれているから、いい?」


気だるげそうな声で詠は言った。


「分かりました、お願いしますっ!」

 

光希は元気な声で返事をした。




***




「……で、ここが給食室。この学校では、クラスを半分の人数にして、その半分で給食の配膳をする。で、その当番は週替わり制ね。」


面倒くさそうにしながらも丁寧に教えていく詠に光希は後ろから目を輝かせながら付いて行った。


「んで、ここが図書室。まあ、本当の名前はふれあいホールって言って、地域の人の集まりとかに使うところなんだけど、そこに借りれる本があるだけって言うちょっと変わった学校なんだ。」

「ということで僕は次の授業をサボってふれあいホールにいるけど、氷川さんは、どうする?」


そういいながら詠はふれあいホールと教室へと向かう階段の方向をそれぞれ指さしていた。


「本当はサボりたいところですが、初日なので遠慮させていただきます。」

「そっか。あと、僕の事は先生に、例の件で居ないって言っておいて。」

「……はい。」


詠の顔はちょっと苦しそうな顔だった。




***




僕は、分からなかった。

なんで春野くんがクラスで「ヒトリ」なのか。


確かにたまに「例の件」と言いながらサボったり、すべての行動を面倒臭そうに行っている気もするところは問題児のように見える。

ただ、それ以外の所では性格がよく、面倒見もいい。


なんで、かな。




***




「……春野くん。」

「……あ、氷川くん。どうした?」


そんなことを学校に行く前に考えた日、図工で学校の中で一番好きだったり、思い出の場所を模写するという授業が行われた。

この学校に来てから時間があまり経っておらず、思い出の場所がないのを口実に、春野くんの思い出の場所に着いて行った。

そこは、僕が使ったことがない、雨のにおいで充満している、プレハブで作られた建物の教室の一室だった。

その部屋は普段、プレハブを使っている五年が副教室として使っているそうだ。

ちなみにプレハブのこの部屋を描く人は僕と春野くん以外いないみたいだ。


「……なんで春野くんは、ここにしたんですか?」


僕は春野くんに聞いてみると、春野くんは一瞬一人で睨み顔をしたが、すぐに真顔になった。


「氷川くんは、知らないよね。」


そういいながら春野くんは苦笑した。


剣崎けんざき瑞央なおについて。」




***




剣崎瑞央は一言で言えば問題児だった。

主なことと言えば、暴言を先生には吐くこと。

ただ、その暴言というのは皆が陰で言っていたことを皆の代わりに瑞央が言っていた。

そんな彼でも根は良いやつで、僕は仲が良かった。

ただ、クラスから見たら、瑞央のせいで説教で放課後が遅くなったり、休み時間が減ったりして、段々瑞央への不満が溜まっていったみたいだ。

そして、「いじめ」が始まった。

未だにいじめっ子は認めていないが、確実に行っていることがいじめ。

そのいじめに僕も含まれた。まだ無視で終わったが。

だが、瑞央は。瑞央は、5年最後の日、屋上でいじめを受けていた。

そして、屋上から落とされた。

4階まである校舎の屋上から頭から打った瑞央は、今は、この世にいない。

そのはずなのに未だに僕は無視をされていて、しかも最悪なことにこの学校では二学年ずつ生徒は持ちあがりのため、ずっとクラスで空気のように扱われている。

その居心地が悪いことを六年の担任は分かってくれて、たまにサボってもいいと言ってくれた。

その時の魔法の言葉が「例の件」。

いじめられ始めた時、瑞央が言った言葉、僕は忘れられない。


「皆、皆、先生に文句を言っていたから代わりに言っていただけなのになんでこんなこと、されてるんだろうね。皆が望んていることはこういういじめだったのかな。」


 そんな言葉を呟いた瑞央の顔は苦しそうだった。




***




そこまで話した詠の顔は泣きそうだった。


「……」


光希は聞き終わった後、ずっと黙ったままだった。


「んでさ、もしかしたら、だけど……氷川くんは瑞央の親戚?」

「え、なんでですか?」

「………似てるなって思って。」


そう詠が言うと光希は観念したように言った。


「……そうですよ、いとこです。」

「じゃあ、なんでこの学校に?」


詠は単純に気になったことを光希に聞いた。


「一つは瑞央くんのいじめについての調査ですよ。まあ、これは軽い目的ですけど。もう一つは……。もう一つは、夏休みが始まってすぐくらいに両親を交通事故で亡くしたんです。だから今、瑞央くんの親……僕から見たおばさんの家に預けられてるんです。」


そこまで早口で光希は言った。


「瑞央くんって、ちょっと強引だけど優しかったので、できたら、復讐なんて思ってますよ。」

「……うん、それは僕も。そして、この教室はいじめの始まりの教室。ここに瑞央が呼び出されて始まった。だから僕はここにする。」

「そうなんだ。じゃあ、僕は詠くんと仲良くなった記念でここを書く!」

「⁈」


詠は突然下の名前で呼ばれたことと、敬語を外されたことにすごく驚いたようで、顔が固まった。

同時に自分が復讐の対象に入っているのではないのかと詠は不安になった。


「あ、大丈夫。今のところ、僕は詠くんは味方、他の皆は敵だと思ってるから!」


光希は満面の笑顔で詠に言った。


「あ、ありがとう、光希くん。」


詠がそう言った時、外には虹がかかっていた。




***




「なあ、春野と氷川ってなんでそんなに仲がいいの?」

「だってずっと一緒なんだろ?」


とある大学の教養学部。

そのまたとあるクラス。

中、高、大学とずっと一緒に行動していた春野詠と氷川光希は小学校の頃の同級生に聞かれた。





「瑞央の代わりに復讐するためだよ。」

 二人は怪しげな笑みを溢した。




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給食の制度や図書室の仕組みは自分が通っていた小学校をモチーフにしました。

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