堕天とリセット

 マリカとフィアナが二人揃って、(銅等級の2つ下の)猫目石等級に昇級した日、リディアから、正式に固定パーティにならないかと打診された。


 高等級のローグと幻術士は、とても魅力的だったからだ。

 リディア達は、他のパーティに目をつけられる前に確保したかったらしい。


 二人は喜び、二つ返事で了承した。

 リディア達も喜んでくれた。

 ただ、銅等級までは兼業を続ける予定だったので、その了承は得ておいた。

 リディア達はアラニスの店の常連客だったので、その点は問題なかった。


 本格的に銅等級を目指すことになり、二人はシフトを変更した。

 冒険者稼業を3週間、バイトを1週間にしたのだ。



 パーティメンバーは皆、リディアを信頼していた。


 リディアの任務の選定はとても堅実だったからだ。


 リディア、アリシア、ミリアムは、銀等級候補でもかなり高い位置にいた。


 それでも、堅調な実績を積み重ねる道を選んでいたのだ。


 全ては順調に思えた。



 任務を終えた帰り道。


 盗賊に襲われたのだ。


 盗賊の頭領はリヒトだった。


 実力はミスリル等級。

 

 チートスキル保持者。


 普通の盗賊が相手なら対処できたが、相手が悪すぎた。


 だが、捕まれば死よりも酷い扱いを受けることになる。


 マリカは、リディア達をそんな目に合わせることができなかった。


 マリカ自身もそんな生き方はもう嫌だった。


 マリカは死を覚悟する。


 フィアナに合図して幻術で撹乱してもらう。


 気配を消し、リヒトの背後に回り込み、甲冑の隙間からナイフを突き立てた。


 しかし、甲冑の加護により、ナイフが弾き飛ばされた。


 リヒトの首筋に少しだけ、切り傷がついただけだったが、

 リヒトは激昂した。



 マリカは、替えのナイフを持ち、再度、リヒトに向け突撃した。


 リヒトは容赦無く、マリカへ向けて、なぎ払うようにチートスキルを放った。



 その瞬間、リヒトとマリカの間に眩い光が発し、リヒトを包み込む。


 リヒトの剣と甲冑が、砂塵と化した。

 

 突撃したマリカは、見えない壁に弾かれて、倒れ込んだ。


 リディア達も、周囲の盗賊達も、唖然と見ているだけだった。


 

 そこには眩く輝く、女神の姿があった。



「リヒト、いえ、マリカ、私の不手際で取り返しのつかないことをしてしまいました。

 彼に与えられた異能と特殊な装備は全て回収しました。

 もはや脅威にはならないでしょう。

 しかしながら、マリカとなったあなたには、何も差し上げることができなのです。

 元の体に戻すこともできないのです。

 お詫びのしようがありません」


「いりません。

 責任が取れないなら、この世界に関わらないでください。

 異能や特殊装備をばらまかないでください。

 人生の続きなんてやらせないでください」


「それは決まり事なので、聞き入れられないです」


「ふざけるな!

 他人の人生を弄んで、決まりだなんだと逃げるのが、女神の仕事なのですか?

 まるで、悪魔じゃないですか!

 私は絶対にあなたを許さない。

 自称女神、悪魔アストレア。

 決めた、私は残りの人生を、あなたを倒すことにささげることにする。

 思い知るがいい、悪魔め!」


 マリカは何度も、跳ね返されながら、アストレアに向けてナイフで切り掛かり続けた。


「悪魔アストレア……」

 フィアナが言う。


「「悪魔アストレア……」」

 リディア達が言う。


 アストレアは慌て始める。


「やめてください、それ以上、女神を愚弄するのは許されません」


「ならば、私を殺せばいい、殺して見せろ! 悪魔アストレア!」


「悪魔アストレア! 私たちの世界からでてゆけ!

 2度と干渉するな!」


「悪魔アストレア! 私たちの世界からでてゆけ!

 転移者を送り込むな!」


「「「悪魔アストレア!」」」


皆が合唱し始める。

 


「やめてください、私の失態はお詫びします。

 これ以上、愚弄されると、堕天してしまいます。

 どうか、やめてください」


「悪魔が堕天? ふざけるな! 悪魔アストレア!」


 アストレアの光の翼が陰り始め、黒い斑点が浮かび上がる。


「「「悪魔アストレア!」」」


皆は合唱をやめない。


「正体を現したか! 悪魔め!」



すると、大地に漆黒の魔法陣が広がり、中から黒い翼の天使のような姿の女が出現する。


と、同時に、空に純白の魔法陣が広がり、中から白く輝く翼の天使のような姿の女が出現する。



二人は同時に同じ内容を話す。


「「アストレア、自分の愚行が理解できましたか?

  取り返しのつかない失敗には贖罪の機会すら与えられないのです。

  女神なら尚更です。

  貴女は長らく失敗に気付くこともなく、隠匿しようとすらしましたね?

  女神を解任します、アストレア。

  魔界に堕ちて、永遠の苦しみの中で生き続けなさい」」


 アストレアは漆黒に染まりながら、大地に飲み込まれてしまった。



「「リヒト、貴方は天界の力を私利私欲のためだけに利用しましたね?

  貴方にも贖罪の機会は与えられません。

  地獄に堕ちて、永遠の苦しみ続けなさい」」


 リヒトは、大地に飲み込まれてしまった。



「「この世界への干渉を中止しましょう。

  天界から与えられた、異能は回収し、特殊な武器、装備は全て砂塵に変えておきました。今後転移者は現れません」」


 マリカが言う。

「私を殺してください。人生を続ける理由がありません」


「「マリカ、あなたには自死ができない魔法をかけました。

  精一杯、生きなさい。

  それがあなたの使命です」」


 マリカは、自分の首にナイフを突き立てた。

 しかし、ナイフは弾かれてれてしまった。


「「無駄ですよ。誰もあなたを傷つけることができません。

  事故死もできませんよ。

  人生を全うするまで、死なせません」」


 そう言うと、天使のような姿の女は魔法陣の中に戻り、魔法陣は消失した。


 いつの間にか、盗賊たちは逃げてしまった。


 フィアナがマリカに駆け寄って抱きつく。


 リディア達もマリカに駆け寄る。



……



 マリカ達が冒険者ギルドにもどると、大騒ぎになっていた。


 転移者の異能や装備が消えてしまっていたのだ。

 

 アダマンタイト等級やミスリル等級などにいた、高等級の冒険者が減ってしまったことになる。ギルドは、彼らの再査定を行い、転移者はベテランでも銀等級からの再スタートが課せられたのである。

 

 マリカ達はギルド長の元にゆき、ことの成り行きを話した。

 ギルド長は驚いていたが、すぐにほっとした表情に変わった。

 少なからず、素行の悪い転移者が問題になっていたからだ。


 マリカたちは叱られるどころか、ギルド長から感謝されてしまったのだ。


 高等級冒険者が不足していたこともあり、リディア、アリシア、ミリアムは銀等級への昇格が決まった。

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XPσF キクイチ @kikuichi

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