ニューライフのリスタート

 マリカは生理日以外は客を取らされた。

 そのほとんどがリヒトだった。

 マリカは生理日には、リヒトに手や口で奉仕させられた。


 ようやく1ヶ月過ぎ、半月ほど冒険者をできることになった。


 お金がないので、宿は取らず、フィアナの同室に住まわせてもらうことにした。


 冒険者ギルドに顔をだすと、女性的になったマリカの変貌にギルド長や受付嬢は驚いていた。


 マリカは、任務の貼られた掲示板の前に立つ。


 マリカは文字が読めなかった。

 読み書きのスキルがなかったのだ。


 そういう冒険者は意外に多く、依頼に書かれたマークを参考にして、詳細を受付嬢に確認する仕組みになっていた。

 

 リヒトには最初から読み書きのスキルが備わっていたので、リヒトになった元マリカは、嬉しくてたまらない様子だった。

 マリカの腰に手を回し、得意げに依頼内容を読んであげた。


「流石はリヒトさまです、ありがとうございます。

 今日はどのような任務をご指導いただけるのでしょうか?」


「ダイヤーウルフを狩りに行く。

 俺の任務。荷物持ち兼お側付きとしてついてくればいいよ。

 報酬はそれなりに払うから」


「ありがとうございます、楽しみです」

 

 片道2日以上かかる任務だった。

 マリカはリヒトの身の回りの世話や夜の相手をさせられた。

 現地に到着しても遠くから眺めているだけで、リヒトが全て片付けていた。

 マリカの冒険者カードには何も反映されなかった。


帰り道、キャンプを設営し、リヒトに抱かれた後、マリカが言う。

「リヒトさま。あの、お願いがあります」


「なに? ドレス? 宝石?」


「いえ、冒険者として経験を積みたいのです。

 いまのままだと経験がつめません……」


「俺、忙しいんだよね?

 実力はミスリル等級だから、早く等級あげたいんだよ。

 マリカはギリギリ黒曜石等級だから、時間がかかるんだよ。

 それに、俺の女を名乗りたいなら、空気読みなよ。

 主人の俺を優先しなよ。

 わかった?」


「……はい。わがままを言って申し訳ございませんでした」


「じゃ、奉仕して、俺の機嫌をよくしてみて」


 マリカは手と口でリヒトを喜ばせた。


 結局、その半月は、なんの経験も積めず、リヒトの身の回りの世話と抱かれるだけの日々で終わった。


 また客商売に戻り、さらに半月。


 リヒトは長期任務のパーティに参加していた。


 冒険者ギルドで掲示板を眺めていたマリカは、受付係のソフィアに話しかけられる。


「マリカさん、順調に成長してますか?」


「ソフィアさん、あ、いえ、こんな感じです……」


 マリカは冒険者カードをソフィアに差し出す。


「うそ? あれだけ参加してたのに、成長してないって……」


 マリカは、ソフィアに事情を話す。


「ひどいね。それって、客商売の延長をしてるようなものじゃない。

 報酬だってかなり低額だし」


 ソフィアはギルド長に状況を説明してくれた。

 マリカは奥の応接室に通される。


「マリカ殿、状況は聞いた。

 とんでもないクズ男に成り下がったなあいつは。

 この世界の女性の大変さを理解してると思って預けたつもりだったのだがな。

 詳細を調べさせたら、マリカ殿の客商売の報酬からも何割か抜き取っていたらしい。

 そんな素行では実力があっても銀等級には昇格させられない。

 銅等級でももったいない。

 帰ってきたら、4等級、格下げすることにした。

 本来マリカ殿がもらうべきだった荷物や金品類はすべて、マリカ殿に引き渡させる。足りない分はすべて補填させる。

 当然、客商売の報酬もだ。

 申し訳なかったね。

 面倒見の良い別の冒険者を紹介しよう。

 女性冒険者の方がいいな。

 ソフィア、紹介してあげてくれ。

 ギルドから追加報酬を出だしていいぞ」


「かしこまりました、ギルド長」


 ソフィアが紹介してくれたのは、銅等級の女性冒険者パーティだった。

 女性騎士アリシア、女性魔導士ミリアム、女性神官リディアだ。

 

 リーダー格のリディアが言う。

「よろしくね。マリカ。

 災難にあったね。

 私たちと一緒に頑張ろ?

 ローグがいると心強いから頑張って等級あげようね?」


「みなさん、よろしくお願いします。

 本当にありがとうございます」


 アリシアが言う。

「あと、今のお店やめちゃおうね。

 私が別の酒場紹介してあげる。

 体売らないで済むところ。

 報酬もあまり変わらないよ。

 早速案内してあげる」


 冒険者任務を引き受けた後、

 アリシアが、住み込みで働けるお店を紹介してくれた。


「マーサのところにいたの?

 災難ね。

 ここは安全だから安心してね。

 私はアラニス。店主してるのよろしくね」


「マリカです。よろしくお願いします」


「じゃ、気をつけて行ってきてね?」


「はい、行ってきます」



 一行は、馬車を駆り、ダンジョンに向かう。

 目的は最近注目され始めた、特殊な鉱石の鉱脈の探索だ。

 探索し尽くされ狩り尽くされたダンジョンだが、周辺のモンスターが住処にしていたので危険な場所だった。

 既に独自の生態系もできているようだった。


 任務は順調に進み、1週間ほどで目的の鉱石を発見して鉱脈を特定することができた。

 

 次の1週間は、さらに別の任務を2つうけ、順調に経験を重ねることができた。


 リヒトに巻き上げられた荷物や金品は全て回収され、マリカに返却された。


 リヒトは重いペナルティが課せられたため、街から姿を消したが、どの街の冒険者ギルドでも同様のペナルティが課せられることに変わりはなかった。ギルド長の話では、ほとぼりが覚めるまで、盗賊などの用心棒でもやって金を稼ぐのではないかとの話だった。


 

 住み込みのお店は、普通の酒場だったが、客層はほぼ女性だった。

 女性冒険者の溜まり場らしい。中にはギルドの受付係の女性陣もいた。

 女性には世知辛い世の中と言うこともあり、こういう場所はとても重宝されていたようだった。


 マリカは仕事中、フードを目深にかぶった女性が外から店を眺めていることに気づいた。

 店主のアラニス伝えると、アラニスは、その女性のところに行って何かを話したあと、店の裏につててゆき、食事を振る舞った。

 その女性はフィアナだった。

 顔には大きなアザがあった。


 アラニスの店でマリカと同室で預かることになった。


 営業終了後、マリカはフィアナを連れて、大衆浴場に行った。

 顔だけでなく、体もアザだらけだった。

 

 二人は部屋に戻り、マリカは2段ベッドの下に寝転んだ。


 フィアナが言う。

「アタシが下でいいよ」


「慣れてるからこっちでいい。寝ぼけて落ちると怖いし」


「そ、ありがと」

 フィアナが上に登って寝転んだ。

 

 少しおいて、急にベッドから降りてきて、

 マリカのベッドに潜り込み、マリカに抱きついて泣き出した。


 マリカはどうしていいかわからなかったが、とりあえず、フィアナを抱きしめてあげた。


 フィアナは泣き止むと、いろいろと話し始めた。


「ほんとはさ、リヒトが長期任務のとき、マリカが一人でギルドに行かないように、アタシが引き止めなきゃいけなかったんだ。

 『急に一人用事ができて空きができたから、その穴を埋めて欲しい』っていって、無理やり店に出すことになってたの。

 アタシさ、そんな仕事ばっかりで嫌気が刺しちゃった。

 マリカは素直で大人しくって従順で可愛くてさ。

 リヒトとマーサにだまされてあんなところにいちゃダメだって、思ってたの。

 前向きに頑張るマリカが眩しくてさ、引き止めることができなかったんだ。

 こんなことなら、もっと早く逃してあげるべきだった。

 本当にごめんね」


「ありがと、助けてくれて。

 それだけで十分嬉しいよ?」


「アタシ、マリカが好きになっちゃったの。

 そばにいたいっておもって、ずっと探してたの。

 これからもそばにいさせてくれる?

 足手まといにも、邪魔にもなるつもりはないから。

 おねがい、そばにいさせて?」


「今そばにいるでしょ?

 それだけじゃダメなの?」


「いていいの?

 本当に?」


「うん。ありがとね。

 私もフィアナさんのこと大好きだよ」


「ありがと。私も大好き」


 フィアナはマリカに抱きついて、再び泣き始めた。

 マリカはフィアナのお腹のあたりの違和感に気づく。


「フィアナさん、お腹になにか入れてる?」


「あ、これ……」


 フィアナがマリカと交わった時のディルドだった。


「どうして、そんなものを?」


「アタシとマリカが結ばれた愛の証だもの。

 これだけは持ってきたの」


「好きってそう言う好き?」


「だめ? マリカが可愛過ぎて、忘れられなくなっちゃったの。

 こんな気持ち初めてなの」


「……わかった」


「ありがと。大好き」


 その日から、また二人は毎晩、愛し合うようになった。



 フィアナは、客商売を専業でしていたが、元々は冒険者だった。

 マリカより3等級下の珊瑚等級の幻術士だ。


 今回のことを機に、兼業に戻ることになった。

 フィアナの装備は店長のアラニスが付けで揃えてくれた。


 リディア達もフィアナを歓迎してくれた。


 冒険者ギルドの計らいで、マリカが銅等級になるまでは、追加報酬が支給されることになっていた。そのおかげで、マリカは引け目を感じることなく、リディアのパーティに参加することができた。


 任務に恵まれたこともあり、この半月で、マリカは1つ上の瑠璃等級に、フィアナは2つ上の真珠等級に上がった。



 アラニスのお店でも、二人の評判は上々で、すっかり看板娘になっていた。


 

 ここまで来るのに紆余曲折あったが、マリカは日々充実するようになった。





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