蝉の目

@sakana_kyuuri

蝉の目

「パパー!蝉見つけた!捕まえていい?」

「おお、そうかそうか。やってみなよ。」

夏の公園で8歳の子供が蝉を捕まえようとしている。それを見ている父親。

私は蝉だが、なんと平和なのだと思う。

「くそー!逃げられた!」

当たり前だ。どのように捕まえようなのかなんてわかっているのだし。楽勝ってやつだ。

その後子供は父親と一緒に帰っていった。

さて、ここで君は違和感に襲われるはずだ。

なぜ蝉が「どのように捕まえるのか」をわかっているのだと。

なぜか。それはこの世の全てを知っているからだ。

といっても、生物としての本能が第一優先事項なのだけれど。もちろん中にはなぜ蝉ごときがこの世の全てを知っているんだとも思うかもしれない。

それも説明しておこう。それは喋らないからだ。正確には逆で全てを知っているから喋る必要がないのだ。

だから犬や猫、はたまたミトコンドリアなんかもこの世の全てを知っている。

さて、今の状況はあの子供から捕まえられずに済んだという状態だ。

しかし捕まらずに済んだということが良いことというわけではない。

すべてを知っているということは自分の死もいつなのか知っているということだ。

とはいえ、私達には運命というものがある。こればかりは一種の枷のようなもので、私達には変えられない。それを変えられるのは君たちだけだ。

ここまで来たら分かると思うが全てを知っているなんていいもんじゃない。役立たないし。

ちなみに子供から逃げたが明後日別の子供に捕まえられる。

わかっただろうか。もう一度言うが案外すべてを知っていてもいいものじゃない。

そんな明後日に捕まってしまうような哀れな蝉を私は隣の木から見ていた。

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