第2話
後日。ノエルは見舞いの花束と共に公爵邸を訪れて、これまでの経緯をステラにこまごまと語って聞かせた。
あの夏の日、ステラに涙の別れを告げたあと、ノエルはステラと再会するために特待生となって王立学院に入学することを決意したこと。
猛勉強の末に実際に入学してみたら、ステラはすでにジェームズと婚約していて大変ショックを受けたこと。
おまけにステラ本人から「婚約者のいる異性とはあまり親しくすべきではない」と冷たく言い放たれ、以降は「婚約者のいる異性」であるステラには容易に近づけなくなったこと。
ジェームズからステラとの間に愛情はないと聞かされて、「それなら私のために婚約を破棄してほしい」と彼に頼み込んだこと。
応じてくれたジェームズはなんと友情に厚い男なのだろうと感動したこと。
ジェームズがステラを人前でつまらない女と罵ったのも、自分たちのために悪役を演じてくれているのだろうと思っていたこと。
ジェームズや他の男子生徒が自分をそういう目で見ていたなんてまるで気づかなかったこと。
これまで「愛してる」「ノエルを妻にしたい」などと言われたことは何度もあるが、いずれも悪友同士の悪ふざけだとばかり思っていたこと。
ジェームズを始め有力家系の嫡男ばかりと付き合っていたのは将来のための人脈づくりであり、他意はまったくなかったこと。
ステラは「ステラに釣り合うように偉くなろうと頑張ったんですよ?」というノエルに若干ときめきはしたものの、「私自身の了承も取らずにいきなり婚約破棄に持ち込む相手とは、やっていけそうにもありません」ときっぱりすっぱりお断りした。
いくら初恋の相手でもあれはないだろう、あれは。
一方ジェームズはショックのあまり自室に引きこもっており、夜会にも公務にも一切姿を現さないということで、こんなことが続くようならいずれ廃嫡されるのではと噂されているが、もはやステラの知ったことではない。
そしてアシュリーの「打ち明けたいこと」とは彼が隣国の第二王子であること、そして本国の許可が取れたので、ステラに婚姻を申し込みたいということだった。
彼はあのとき既にステラとジェームズが破たんするのは時間の問題だと見ていたが、卒業するまで身分を明かさないことが留学の条件だったため、婚姻についても口にすることができなかったらしい。
今まで黙っていてすまないというアシュリーの言葉を、ステラは快く受け入れた。
そしてプロポーズの方も、笑顔と共に受け入れた。
今まで王太子妃として教育を受けて来た以上、隣国の王子妃となることについてもこれといった不安はない。
それに優しいアシュリーはきっといい夫になるだろう。妻を愛し、子を慈しむ、理想的なパートナーに。そして自分も良き妻良き母になり、二人で協力し合って温かい家庭を築けるだろう。
それでも。
それでもあの夏の日と、強烈な初恋相手のことは、きっと死ぬまで忘れられないだろうけど。
約束の少年 雨野六月 @amenorokugatu
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます