第9話 3つ目の謎。そして……
二つ目の謎を解いた後で、野呂さんから二枚の紙が渡された。
紙には、
『作者の部屋を訪れよ
➀②③④⑤⑥』
と書かれているものと、大きな長方形を横に三分割し、その三分割された図形の内、真ん中を除いた二つが縦にさらに三分割した絵が描かれているものがあった。
カードはそれぞれが一枚ずつ持っているものと野呂さんから渡されたもので、合計で六枚ある。
私のカードは、表には『明桜社』、裏には『来弥凪』と書かれている。先生のカードは、『赤の殺人鬼』と『澄空黄昏』、乙ヶ崎さんのは『霧に沈む街』と『雨音』、秋月先生のは『ノスタルジア』と『秋月紅葉』、詩樹先生のは『さざめく死体』と『詩樹』と書いてあった。そして、最後のカードは、野呂さんから渡された、『月の城』と『大向翁』と書かれているものである。
カードの枚数と、答えの番号の数が揃っているのが気になる……。それにしても、この図形は、何を表しているのだろうか。
周りの様子を見ると、まだ解けていないのであろう、全員が考えるように見受けられる。ただ一人、先生を除いては……。
私は、こっそりと先生に近づいて耳打ちをする。
「あの、先生、もしかしてなんですけど、もう、この問題解けちゃいました?」
先生は、猫のように体をくねらせた。どうやら耳が弱いらしい……。そして、私の行動にたいそうご立腹なのか親の仇を見るような目で睨んでくる……。
我ながら思うが、どうして私は、変に大胆な行動ができるのだろう……。そして、大概その後で自分の行動を後悔することになるのだ。
汗をだらだらと流し、目線を思いっきり先生から外す私を見て呆れたのか、その眼光の鋭さは徐々に緩んでいく。
「まぁ、一応解けたけれど、少し違和感を感じる部分があるのよね」
もう解けたのか……。確かに、今までの問題に比べれば、ヒントは多いような気もするが、それでもこんな速度で解けるものだろうか……。それにしても、何に違和感を感じているのだろう……?
質問しようと口を開きかけたところで、先生から「ヒントは出さないわよ。自分で解きなさい」と釘を刺されてしまって何も聞けなかった……。
「野呂さん、ちなみに、これは全員が解けるまで待った方がいいのかな?」
乙ヶ崎さんが不意にそんなことを言う。
「え!? と、解けたんですか?」
先生に意識を向けていたせいで、問題なんて、全く考えていなかったので、不意打ちを食らった気分になる。乙ヶ崎さんは、嫌みのない笑顔をこちらに向ける。
「うん、まぁ一応ね。多分、来弥さん以外は解けてると思うよ?」
他の先生方をそれぞれに見ると、無言で首を縦に振ってくる。また、一人残ってしまった……。いや、まぁ、そんな気はしていたけれど……。
「そうですね。できれば、全員で答えが分かってから向かいましょう。皆さんが正しい『部屋』を訪れることが出来るのかどうか、というのが問題ですから」
少し含みのある野呂さんの言葉に違和感を覚えながらも、今度こそ問題に向き合う。
カードが六枚で、答えの空欄も六個という事は、このカードの何かが答えには入るのだろう。定番のところで言うと、それぞれの頭文字かな? 名前でいいなら、作品名とか私の会社名なんて載せないはずだから、使うのは作品名や会社名の方だろう。
あとは順番だな……。
きっとここで、この謎の図を使うのだろう……。
紙を持って、いろいろと思考を巡らせてみるが、何も思い浮かばない……。同じ正方形が、六つあることもヒントなのだろうか? ま、まずい……。完全に思考が止まってしまった……。
「あ、あのぉ……。ヒ、ヒントとかって……」
野呂さんは笑顔で、首を横に振る。
ど、どうしよう……。
「はぁ~。野呂さん、この建物、上はそれぞれの部屋で六部屋あるようだけど、下の方は何部屋あるのかしら?」
唐突に先生がそんな質問をする。私は、当然だが、他の人も驚いたような表情を見せる。
「い、一階には、私の部屋と倉庫、使用人それぞれの部屋とこの談話室で、六部屋でございます。この談話室のスペースをとるために、各部屋はそれぞれ小さいものになってはおりますが」
野呂さんは戸惑いながらも、先生の質問に対して、的確な回答をする。なんで、いきなりそんな質問をするのだろうか……? 続けざまに先生はまた質問をする。
「上の六部屋の大きさは同じなの?」
「え、えぇ。どの部屋も同じ大きさ、同じ形になっております」
「来弥さん。澄っちがここまでしてあげてるんだから。流石に後は自分で解かないとだよ~」
乙ヶ崎さんがニヤニヤとした笑顔をこちらに向ける。
「へ?」
先生の方を向くと、思いっきり顔を逸らされた。耳が赤くなっているのは、それでも分かってしまう。何というか、ここ数日で思うが、先生がただ怖いなんて私たちの勝手な妄想なのかもしれない……。
先生は、必要のないことなんて言わない人だ。この質問は私を助けるためのヒントになっているに違いない。
「同じ形の部屋が六つ……。空欄の数も六つ……。カードが六つ……。そして、この図……」
ぶつくさと呟きながら、再び思考を巡らせる。
………………なるほど!!
「あの、失礼かとは思いますが、秋月先生と詩樹先生のお部屋は何号室でしょうか?」
秋月先生は、優し気な笑顔を浮かべる。
「私は、二〇四号室ですわ。詩樹先生は、二〇一ですよね?」
詩樹先生も無言で頷く。
私の部屋番号は、二〇六。先生は、二〇五。乙ヶ崎さんは二〇三のはずだ。後は、大向先生だが、大向先生は、消去法で二〇二号室になる。おそらく、あの図は、二階の見取り図を表していたのだろう、六つの正方形は、それぞれの部屋、そして、真ん中の長方形は廊下を表しているのだ。したがって、この部屋の順番でそれぞれの作品名と私の会社名を並べると
『さざめく死体』
『月の城』
『霧に沈む街』
『ノスタルジア』
『赤の殺人鬼』
『明桜社』
となる。
そして、その頭文字を並べると『さつきのあめ』。つまり大向先生の作品の「皐月の雨」がその答えとなる。
「こ、答えは『皐月の雨』ではないでしょうか? つまり、向かうべき部屋は大向先生の部屋では?」
野呂さんの方を見やる。
「さぁ、どうでしょうな。大向先生の部屋に行くまでは、正解かどうかは分かりません。ちなみに他の方々も、大向先生の部屋に行くという事でよろしいですか?」
三人の先生方は即座に頷いたが、先生だけは少し、難しそうな顔をしている。
「せ、先生? どうかされました?」
「え? あぁ、大丈夫。それで、あの人の部屋に行くのでしょう?」
「は、はい」
全員で、揃って談話室を出て、大向先生の部屋へと向かう。
しかし、よく考えたら、部屋を訪れたところで、どうせ、扉を開けてくれることもないだろう……。果たして、これから正常にツアーを続けることはできるのであろうか……。
そんなことを考えているうちに、大向先生の部屋の前に辿り着く。
野呂さんは、少し不安げな顔をしている。それは当然だ。おそらく、ツアー前にこの部屋に仕込みを入れていたのであろう。それが、こんなことになっているのである。完璧な計画というのは、完璧であればあるほど一部の綻びから全てが崩壊してしまいかねない、なんて、どこかの小説か何かで見た気がする。
「大向先生、ちょっと、よろしいでしょうか?」
ノックの後に野呂さんが丁寧な口調で話しかける。中からの返事はない。
「大向先生、少しで構いませんので中に入らせていただいてもよろしいでしょうか。このままでは、ツアーが継続できませんので」
そういって、野呂さんが無謀だと分かりつつもドアノブを回して開ける素振りを見せる。すると思いがけず、ドアがうっすらと開いた。
「おや? 鍵が閉まっていない……?」
野呂さんは、そのまま開けようとしたが、何かが引っかかっているのか開けるのに苦労しているようだ。そこで、私と乙ヶ崎さんも手伝ってドアを開けることになった。
「「「せーの!」」」
ドアを勢いよく開けると、そこには、一面、大量の原稿用紙が散らばっていた。拾い上げると小説の生原稿のコピーだった。
「これは、『皐月の雨』のコピー原稿ですわね」
秋月さんがそう言った瞬間に部屋に悲鳴がなり響いた。
「うわぁぁぁぁぁぁぁl!!!」
その声の主は、詩樹先生だった。腰を抜かしたように倒れこみ、指をある一点に向けながら、唇を震わせている。
詩樹先生が指を指している方向に目をやると、大向先生が内側のドアノブに帯紐をひっかけて、首を括っていた……。
澄空黄昏の推理ゲーム〜天才小説家の推理日記〜 宮間風蘭 @Fuuran_Miyama
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