第8話 2つ目の謎〜回答編〜
「お答えになる方はいらっしゃらないのでしょうか?」
野呂さんは、全員を軽く見回しす。
「大体の答えでもいいのなら、ボクでも答えられると思うけど、きっと、それじゃあダメなんだろうね?」
乙ヶ崎さんが試すような口調で、野呂さんに笑顔を向ける。
「ええ。できれば、私の考える答えになるべく近い回答していただきたいですね」
野呂さんも、お返しといわんばかりに笑顔を返している。まるで、二人で心理戦をしているかのようだ……。
「それでは、秋月先生から質問をしていただけますか?」
秋月先生は、メッセージカードの文字の書いてある方を裏にして、机に伏せる。もう、問題を見る必要はないという事なのだろう。
「この将軍と主人は、元々友好関係にありましたか?」
「そうですね。友好関係かどうかは分かりませんが、少なくとも敵対関係にはありませんでした」
乙ヶ崎さんも間髪入れずに質問を投げかける
「じゃあ、主人は、将軍のことを恨んでいるのかな?」
「現在も、恨んでいるかはわかりませんが、一時期は確かに恨んでいたでしょうね」
さすがの私でも、ここまで来たらある程度、謎の答えは分かった。しかし、これ以上何を質問したらよいのだろうか……。
「来弥さん?」
「あ、はい。えーっと……。主人の地位は、元々、とても高いものでしたか?」
野呂さんは、口元に精一杯の笑顔を蓄えている。
「ええ。元々は非常に高い地位の人物でありました」
「それは、一国の王とか?」
食い気味に詩樹先生の質問が入る。
「その通りでございます。最後に、澄空先生よろしくお願いします」
「主人の現在の見た目はとてもみすぼらしいものになっているのかしら?」
先生は、興味なさげに、メッセージカードを掌で弄びながら、質問をする。ここまで来て、まだノンストップで質問が出来ることに、私は正直、驚きを隠せない。
「ええ、現在のお爺さんには、かつての面影はありませんな。さて、質問のお時間は終わりです。回答のお時間へと移りましょう。もうすでに皆様、答えが分かっていらっしゃるとは思いますが、どなたが回答なさいますか?」
なぜか、ゆっくりと全員の視線が私に集まってくる。もとい、先生だけは、相も変わらず興味なさげにどこかを眺めている。視線は、ワインが丁寧に並べられた棚に向いている。
いやいや、そんなことはどうでもいい……。どうして、私に視線が集まっているんだ……。
「前回、最後だったんだから、今回の正解は凪さんが正解を持っていきなよ~」
乙ヶ崎さんが、屈託のない笑顔を浮かべながら、そんなことを呟く。他の人もそれに同意するように頷く。全く、変に気を遣うのはやめてもらいたい……。
しかし、この空気の中、「私は大丈夫です」なんて言えないし……。仕方がない……。
「ええっと……。間違っていたら申し訳ありませんが、将軍はもともと、主人のお爺さんが治める国の軍人だったけど、将軍の裏切りによってお爺さんの国が潰れてしまった。将軍は、かつての国王の今のみすぼらしい姿を見て、自分が行ったことを後悔して、自殺してしまった。といった感じでしょうか?」
不安げに言葉を紡ぐ。先生と詩樹先生以外は、まるで子供を見るような目で私の言葉に頷いてきた。
「来弥さん」
「は、はい……」
「正解でございます」
ほっと胸をなでおろす。
「ちなみに、私の用意した正解は、
『将軍はもともとある国の軍人であり、お爺さんはその国の国王だった。将軍はおじいさんの治める国と敵対する国から、将軍の地位を与えられることを条件に裏切りを頼まれる。軍人の裏切りによって、お爺さんの国は潰れ、お爺さんは命からがら逃げ切り山奥で隠れることになった。将軍となった軍人は、山小屋でかつての国王であるお爺さんに出会い、その凋落ぶりをみて、涙を流し、その行いを後悔し、自決に至った』
というものでございます」
「いやぁ~。無事、正解おめでとう、凪さん」
「あ、ありがとうございます……。というか、モニターのメインは皆さんなんですから、皆さんの中の誰かが答えた方が良かったんじゃないですか?」
「いやいや~。僕らみたいな特殊な人間より、凪さんのような一般人よりの人が答えた方がいいんじゃない? 客層を考えてもさ」
ミステリーツアーに参加する人間が私みたいに不勉強な人間なわけがないと思うが……なんて思いながら、苦笑いを浮かべる。
「ほらほら、澄っちもほめてあげなよ~。担当編集さんが正解したんだから~」
先生は、私を見ることもなく呟くように言葉を発する。
「これくらい正解できないなら、編集者なんてやめて、言葉を使わない仕事に就くべきでしょ」
相変わらず手厳しい……。まぁ、確かに大量のヒントがあるから誰でも解ける状態ではあったと思うけど……。
「皆様、お楽しみいただけましたでしょうか? 何か問題がございましたら、お願いできますでしょうか?」
さっきと同じように、全員を見渡すが、誰も手を上げようとしていない。全員が一定程度満足している、という事でよいのだろう。
確かに、このような問題であれば、いろいろと考えながら質問すること自体が楽しめるだろうし、私みたいに答えられていない人にも分かるように、他の人が誘導しやすくもあるだろう。すべての人が謎解きに満足できるようにするために水平思考クイズを入れるのは、正直ありかもしれない。
*
その後、昼食を、大向先生を除く全員でとったが、結局、大向先生が姿を現すことはなかった……。これで、次からの問題は大向先生抜きで行うことになった。いい大人なんだから、いい加減で出来たらいいのにと心底思う。
野呂さんからの指示で、全員が昨日、各々に配られたカードを机に出した。その後、野呂さんによって、もう一つのカード、二枚の紙が机に置かれた。
カードの表には『大向翁』、裏には『月の城』と書いてある。
片方の紙にはおそらく問題文であろう
『作者の部屋を訪れよ
①②③④⑤⑥』
という文言が書かれている。
もう一枚には、ヒントであろうが、大きな長方形を横に三分割し、その三分割された両端の図形二つを、さらに縦に三分割した絵が描かれている。
もう私には、さっぱりだが、先生方には、この問題が解けてるのだろうか……。
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