一人きり

かい りお

第1話

おかしいな。この辺に停めたはずだけど。えりは駐輪場を一周してみた。ない。まただ。マジか。えりはため息とともに嫌な気分になった。また真っ暗な中、歩いて帰るはめになった。何より親に怒られるのが怖かった。家まで帰る道のりをゆっくりゆっくり時間をかけて帰った。なんて言おう。また駐輪場じゃないところに停めたから盗まれたって言おうかな。でも前と同じじゃ怪しまれるよな。友達に貸した?そっか、

仲の良い友達に貸したことにしよう。えっと、かな。かなに貸したから明日戻ってくるって。それでも疑われたらどうしよう。でもそれ以外に何も思い浮かばないよ。しょうがない。

えりは家の前に着いた。心の中で何度もリハーサルした。不自然にならないように。

「ただいまー。」

元気に玄関のドアを開けた。

まだお母さんは帰ってきてなかった。

先に宿題しよ。えりは宿題を終わらせてリビングで漫画を読みながらくつろいでいた。お母さんが帰ってきた。

「えり、帰ってたんだ。」

ドキン。

「あのさ、家の前に自転車がないんだけど、どうしたの?」

「あ、それね。なんか、かなが急用だから自転車貸して欲しいって言ってきて。だから貸してあげた。多分明日の塾の時に返されると思うけど。私って優しいでしょ。」

「え、何で?貸したの?塾、結構な距離歩かないといけないのに?明日歩きだよ?

いいの?」

「いいいのいいの。たまには歩きもね。」

「自分がいいならいいけど。じゃ、ご飯作るね。」

お母さんはご飯を作り始めた。良かった、疑われなかった。それにかなのこと何も聞かれなかった。良かった。

朝になった。学校だ。家を出てとぼとぼと歩いた。遠いはずの道のりはあっという間に終わった。だんだん他の生徒がチラホラ見え始めた。同じクラスの子達もいる。なるべくみんなと目を合わせないように歩いているつもりだけど、気になって時々、ちらっと顔を上げてみる。

やばい!かなだ。かなと目が合った。前から来てたんだ!すぐに下を向いた。かなの足だけ見える。目の前の角を曲がっていった。たかちゃんとちーちゃんの声もした。みんな角を曲がって行く気配がした。わざと足をゆっくりにした。3人はおしゃべりしながら歩いているから凄くゆっくりだ。追いつかないようにそっとそっと歩いた。途中、ポケットから何かを取り出すふりをして足を止めて時間を稼ぐ。でも不自然な行動は長くは出来ない。今度は靴の中に何かが入ってしまったふりをして端によけて靴を片方脱いでトントンとする。何も出てこないのは分かってるよ。数回靴を叩いてからかな達をちらっと見る。まだいる。早く行けよ!かながちらっとこちらを見た。たかちゃんと話しながらちらっと。目が合った。かなはまたおしゃべりを始めて、楽しそうに笑った。大きい声で私に自慢するかのように。私には沢山友達がいるけどえりにはいないの?寂しいね、って言われてる気がする。あんなに仲が良かったのに。たかちゃん、ちーちゃんどうして?馬鹿にしたような目で見てるよね。気づいてるよね、私の事。

なんで!この日々はいつまで続くの?

憂鬱で憂鬱で吐きそうになるのはこれで何度目だろう?誰か私を仲間に入れてよ!


私はごくごく平凡な家庭に生まれて、ごくごく平凡な小学生時代を過ごした。友達も沢山いて、結構活発な方だったから毎日走り回って体を動かして、男の子も女の子も関係なく仲良く遊んで毎日楽しかった。成績もそこまで悪くはなく勉強も嫌いではなく、こんな毎日がずっと続くと思っていた。だって中学校は近くの公立だから同じ小学校の子達がほとんど同じ中学校に行くから多少人見知りがある私でも、慣れた友達が半分位いれば新しい子達が半分くらい入って来てもうまくやっていけると思ってた。だって友達とたまには喧嘩するけど数日後には仲直りして、また楽しい日々がやってくるから。


中学生になった。

待ちに待った新しい友達との出会い。そして元々の楽しい仲間。ドキドキしてキラキラして大好きな運動部に入って楽しい日々を想像した。

先輩を好きになったり告白とかしてみたりされてみたり。そんな日々が来るかもなぁと想像してわくわくしてた。元が真面目で人見知り。友達作る時は、頑張らないと話しかけられない。でもそれを気づかれないように。さも、慣れてますよー、緊張してないですよー、誰とでもすぐ仲良くなれますよー、みたいな軽いテンションで数人に話しかけてみる。会話が盛り上がらない。そりゃそうだよね。だってまだ会ったばかりだから。共通の話題も特にないし。そのうち先生の悪口を言ったりとかしてキャッキャしちゃうんだろうけど。でも合う子もいるし合わない子もいるから時間をかけて少しずつ仲良くなればいいやと思ってた。でもすぐに他の友達はどんどん新しい友達と話し始めてる。数日すると名前で呼んだりしてる。ラインも繋いだんだ。どうやって繋いだんだろう。学校にスマホは持ってっちゃいけないのに。えっ、昨日一緒に遊びに行ったの?いいな。そしていつの間にか呼び捨てで呼んでたりする。どうやったの?どうやったらそんな風に笑い合えるの?いいなぁ。私も頑張らないと。手当たり次第話しかけてみる。でも何かすでにグループが出来上がってる。あせる。どんどんあせる。やばい、早くグループに属さないと入れなくなる。

あれ?難しいなぁ。あれ、かなはもうあの子と親友みたいになってる。あれ?さやかちゃんも違う子と仲良くなってる。えっ。男子も混ざって輪になって。絶対入る隙間ないよ。あれ?っていうかなんか私、無視されてない?え?なんで?みんなあんなに前は話してたのになんで話しかけて来ないんだろう。いや、話しかけてくれないんじゃなくてあっちの方が楽しいからこっちの事を忘れてる感じがする。だってバイバイってするときはちゃんとしてくれるから。そう、それだけ。バイバイの時だけ。それまで私はほとんど一人きり。なんかどうしていいか分からない。

あ、前の席の子が話しかけてくれた。なんだ、宿題集めるのか。

あ、また。あ、なんだプリント集めるのか...だめだ、どうしよう。

私は必死で話しかけた。男の子はなんだか中学生になってから私にあまり話しかけて来てくれなくなり、こちらからも話しかけづらくなっていた。

だから女の子しかいない。あれ?私、今日あんまり人と話してないな。あれ、私こんなに静かだったっけ。言いたい事あまり言えなくなって一人で行動する事が多くなった。かなたちは新しい友達になじんでる。っていうか、かな、リーダーみたいになってんじゃん。話の中心にいる。なんか他にも目立ってる子もいて、少し言葉遣いがきつい子とかいて、なんか怖いな。嫌われたらまずいよな。何か同い年なのに雲の上の存在の様な気がする。たまにかなに話しかけてもらえると、いや話しかけられると何だか嬉しい。、何だか下に見られてる気がするけどそれでもたった一瞬話しかけてもらっただけで仲間に入れた気がする。でもそれも本当に一瞬だけ。あっという間に私はいつもの教室の自分の席に座っている。そして自分の膝ばかり見てる。

休み時間が来るのが本当に嫌だ。自分が一人だって分かるから。チャイムと同時にみんな移動する。かなの席の周りに大勢が集まっている。男子も女子も。それ以外にもポツポツと少人数のグループが出来ていて笑い声だけが誇張されて聞こえてくる。次のチャイムで隣の席の子に話しかけてみる。仲良しの子達の所に行く前に話しかければ仲良くなって私のそばにいてくれるかもしれない。親友になれるかもしれない。

「ねーねー最近何の映画観た?私はねー...」

と言ったところで、その子は席を立った。早く向こうの輪に行きたいみたいで。でも私に悪いからどうして良いか分からない感じで。気づかないふりして映画の話を続ける。ほとんど聞いてない。その子の顔は向こう向いてるから。どうしよう。惨めだ。話をやめた。その子は何も言わずに小走りで向こうに行ってしまった。席だけを横に向けてる私の周りには誰もいない。みんなそれぞれのグループの輪へ移動してる。誰もいない。どうしようどうしよう。みんな気づいてるよね。私が一人だって。かなも気づいてるよね。恥ずかしくて悲しくてどうしていいか分からない。早く授業始まってよ! 

チャイムだ!やった!理科の先生が来た。

「今日は理科室へ移動して実験のやり方の説明をするからみんな教科書だけ持って理科室へ移動!」

なんで?突然やめてよ。みんなはわいわいとあっという間に数人に分かれて移動しだした。私も行かなきゃ。一人で。実験か。席をくっつけてあるからみんなで対面するよね。話に入れるかな?理科室へ着いた。自分の席へ座るともう同じ斑の子たちはおしゃべりしてる。

「ごめんごめん。遅くなっちゃって。」

おどけてみせる。みんな聞いてない。でも頑張って入ろう!昨日遊びに行った公園での話をしてる。

「たかしがかなのこと追いかけてさー、鬼ごっこっつってめっちゃはしゃいでたよね、かなとたかし。たかしってかなの事好きなのかな?」

「まじ?たかしってリーダーシップあってかっこいいよね。でもかな可愛いからかなのこと好きかもね。」

かなの話だ。かなも学校から帰った後、公園に集まってるんだ。この話なら入れるかもしれない!

「えっ、学校の後公園に集まってるの?かなも行ってるんだー。へー、かなは私昔から知ってるよ。めっちゃ仲良かったし。」

みんな思ったより反応薄いな。かなの話しでもっと盛り上がると思ったんだけど。しーん。話が続かない。というか誰も相づちも打ってくれないよ。私、なんか悪い事した?隣の班から他の子が話しかけてきてみんなそっちの男子たちと盛り上がってもう入れない。一緒に会話してる風に愛想笑いをしてみる。声も発しないで笑ってると段々引きつってくる。でもここでやめたら一人だと思われる。暗い子だと思われる。最後まで声を出さずに笑顔を作ったまま授業が終わった。何してるんだろう。どれだけ同級生にこび売ってるんだろう。自分が嫌いになった。悲しくて、悲しくて、誰かが

「大丈夫?」

ってもし声をかけてくれたら堰を切ったように涙が溢れ出してくるだろう。それほど精神的にはぎりぎりだった。でも誰も話しかけてはくれなかったから泣く事はなかった。泣かなくてすんだ。良かったかもしれない。


部活を決めなければいけない日が近づいてきた。部活は必ず入らなければいけない決まりだ。バドミントン部に入った。好きなスポーツだから楽しそうだった。クラスでは今のところ浮いてしまってるけど部活では他のクラスの子達がいるし先輩もいる。運動神経には自信があったから良いとこ見せればみんなチヤホヤしてくれるかもしれない。

バトミントン部に入部した一年生の女子は全部で五人。かなもいた。そうだよね。小学校の時よく二人で学校の後、かなの家の前でバドミントンしたもんね。毎日毎日飽きもせず夕方暗くなってシャトルが見えなくなるまでやったもんね。楽しかったよね。でも今は何だかかなは敢えて私に話しかけない。一年生の女子は同じクラスが私とかなを含めて4人。他の学校から同じ中学に上がったあまり話した事がない二人の子達。もう一人は小学校が同じだったまきちゃん。まきちゃんはほんわかしてとっても優しい子だった。中学校でクラスが違うからあまり話す機会がなかったけど小学校の頃はたまに学校で鬼ごっこをやったりお互い足が速かったからリレーの選手で争ったりしてた。他の学校から来た二人の子よりも仲良くなれる可能性は高いよね。でもそんな考えは甘かった事を私は数日後に気づくことになる。


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一人きり かい りお @ponkichidiamond

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