机
ネコイル (猫頭鷹と海豚🦉&🐬)
机上の神様
机には世界がある。
わたしはこんな時にまでそんな想像を巡らしていた。
わたしたちは机の上で会話をして、仕事をして、勉強をしてそしてもので埋め尽くす。今も目の前に机からあふれ出したかけらがころころと転がってくる。
いつも机はきれいにしなさいと怒られていた、こんな自分一人で狭いくらいのちいさな空間がどうしていつも汚くなるのかと思っていた。きっとわたしはそこに世界を生み出していたんだと思う。
積読の岩山、書類の荒波、恵みの雨を溜め込むペットボトルとそれを求めるケシカスの生物、秒針は太陽で長針と短針は年月を指し示す。そんな世界。
そんな世界の創造主たるわたしは神様だった。
わたしが風を起こし、岩山を成長させ、生物を根絶やしにすることだってできたのだ。でもわたしは心優しい神様だからそんなことはしなかった。
でも今わたしは神様ではない。
かつて神様として君臨していた世界の反対側にいるから。
ここには世界なんてない。
ただわたしが含まれる大きな世界があるだけ、きっと誰かが同じように机のうえに作った世界が。
そこからじゃあきっとわたしの声なんて届かない。
見下ろすその誰かには見下ろされるだけのわたしの声なんて届きっこない。
だからきっと、わたしはここで死んでしまうんだと思う。この瓦礫につぶされて。
また大きな瓦礫が落ちてきてわたしの世界を潰そうとしてくる。
いったいどれほどここにいるんだろう。世界がこの小さな机ほどの広さにまで縮こまってしまったような錯覚を覚えてしまう。
世界の広さをもう一度、一度でいいから思い出したい。
その時、わたしの背後にあった本棚の金具が外れてこちらに倒れてきた。机は確かにわたしのことを守ってくれたけど、それが最後だった。
まるで回転するこま同士が互いをはじくように、わたしの世界は襲い掛かる巨体を受け止めることはできず、そのままわたしの前方へと飛ばされてしまった。
衝撃音にびくついてわたしがうずくまっている間も、小さくわたしの体をたたく感覚が続いている。
わたしが恐る恐る顔を上げるとそこにはほんの小さな光があった。
わたしの手のひらで覆い隠せてしまえるくらい小さくて弱い光が、真っ暗な真上のほうから降りてきていた。
わたしはその光を優しく包み込みながら、また顔をうずめる。
でも決して怖がっているわけじゃない。
この包み込んだ手の中には温かい光があるから、わたしはそこに自分を見つけられる。
だから大丈夫。
たとえ光の筋が消えても、それを消した暗闇が襲ってきても、そのせいで光を手放してしまっても。
わたしの世界はここにある。
だから大丈夫。
机 ネコイル (猫頭鷹と海豚🦉&🐬) @Stupid_my_Life
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