悲しいことがあったとき、人間はムリして楽しい音楽を聴くよりも、とことん悲しい音楽を聴いて号泣するほうがいいのだそう。悲しみの数値が底まで達すれば、そのあとは回復するだけだから、早く悲しみから立ちなおれるのだとか。
ところで童話って、じつはけっこう悲しいものが多い。最近は教育によくないとかで、桃太郎は戦わずして鬼と友達になるし、さるかに合戦だって、かちかち山だって、生き物を殺さない。
人魚姫なんかも、ほんとは海の泡になっておしまいなんだけど、それでは可哀想すぎるっていうんで、その魂は神様の御許へ呼びよせられ、天国で幸せに暮らしているということです、なんてつけたされることも。
だけど、アンデルセンにとっては海の泡となって消えることこそが物語の完璧な形であり、人魚姫はそのために存在していると言っても過言ではない。
誰しも悲しいときに、「今夜は泣きたい」と思うことがある。そんなときに、ぜひ、この話を読んでください。
物悲しいんだけど美しく、泣きつかれたあとには、ほのかに幸福の影を見る。
そんな一編です。