第7話:楽園

「やあ聖女、大変だったね、でももう大丈夫だよ」


 ロキは聖女を起こしてやった。

 新たな国を創り、そこで幸せに暮らせる準備が整うまで、眠らせていた。

 ロキが新たに創った国は、極北の国から少し離れた氷の世界にあった。

 その国には、大陸の国々の中で最底辺にいた人々が集められていた。

 彼らは自分達を救ってくれたロキを心から敬っていた。


「まあ、ありがとうございます、貴男様はどなた様なのでしょうか?」


「私は神だよ、君を助けるために、この世界に降臨したんだよ」


 ロキは新しい遊びを思いついていた。

 長い神の時間を持て余していたロキは、今度は人間を騙しきる遊びを選んだ。

 自分が慈しんだ聖女に、善神だと騙して幸せな一生を送らせる。

 そんな遊びをしてみようと思ったのだ。

 途中で悪神に豹変しないとは言い切れないのだが……


「まあ、本当に有難く畏れ多い事でございます。

 それで、国はどうなったのでしょうか、民はどうしているのでしょうか?」


 聖女オリビアは、殺されかけた今でも心優しいままだった。

 目を覚まして眼の前にいる方が神だと分かると、直ぐに民の事が気になった。

 幸せにしているのか、それとも天罰を下されてしまったのか、心配だった。


「あまりにも邪悪な心を持ってしまったので、聖なる光で焼いて、天に帰したよ」


 結果はとても無情なモノだったが、それはしかたがないとも思った。

 全ての聖女は、初代から代々教え受けそれを伝えているのだ。

 聖女に選ばれるほどの人達が、ロキの本性に全く気が付かない訳がない。

 怒らせてはいけない神だという事くらいは分かっていた。

 その神がすでに天罰を下したというのだ、もう何を言っても遅すぎた。


「では私も民と一緒に天に帰してください」


 聖女オリビアは、民が天に帰った以上自分も追いかけるべきだと思っていた。

 追いついてまた天界で民のために祈ろうと考えていた。


「可哀想だけど、それは許してあげられないんだよ。

 この世界には、極北の国以外にも、聖女の助けを必要としている国があるんだ。

 そこで聖女として民を助けてあげて欲しいんだよ」


 聖女オリビアは正直嬉しかった。

 まだ自分は必要とされていると思えた。

 双子の悪女が行った凶行は、聖女オリビアの心を深く傷つけていた。

 残虐な方法で殺そうとした事ではなく、護ろう助けようとしていた民から、必要とされず殺されかけたことがだ。


「分かりました、この力の及ぶ限り、命をかけて祈らせていただきます」


 聖女オリビアは幸せだった。

 物心つく前に神殿に引き取られ、先代聖女に聖女としての生き方だけを教えられてきたのだ。

 聖女として生きるしかなく、聖女として生きる事だけが幸せだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

極北の聖女は王太子に虐待され、氷牢に閉じ込められ、凍死させられそうになりました。 克全 @dokatu

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ