水海館にて
@alfirjg7k4ht
水海館にて
親友
時々、胸焼けを起こさせもするけど、親友との出会いがその香りのする
けれども半ば居眠りをしていた僕なので、こんな事は馬鹿馬鹿しい、思い込みにしようとする思い込みだ。ラムネを煮沸消毒しなければ飲めないのなら、それに憧れているだけでいいさ。綺羅星波止場のアイツのように。
夏暮は薄暗い
「あいつは雄かな、双子かな」
少なくともそれが彼にとってどうでも良い事なのは確かだ。僕も彼も
「あの雄の深海魚、好き勝手に泳いでいるようだが、そう遠くない頃に死ぬさ。ただ泳いで水流を起こして、跡は何にも残りゃしない。せいぜい糞尿くらいなもので、本能に従って泳いだってそれが何になろう。餌をやる職員とか水質管理をする奴とかの心一つで、皆死んでしまう。
俺みたいなもんさ、誰かの采配一つで暮らしてゆけない無能力な生き物。朝が来る度、俺は悪態をつくさ。一日の始まりは苦悩の初まりで、そのたんびに俺は仕事を持たない
恥知らずな朝の訪問を刻む時間という奴――僕にも彼にもこの場の暗さを透かして視えている。精神をなだめるためにもこのような場所は大事であったが、一時の
誰かの有名な楽曲が放送されている――テトテトテトテトテトテト……。
これは『エリーゼのために』だ。僕の気のせいでなければ先ほどから同じフレーズが繰り返され……機材の故障だと上の空に思っていた。
夏暮は水筒に口をつけると、天井のスピーカーを見上げて、
「どこかへ逃げ出したいよ、手首を切りたいよ、でもそんな度胸もないし、首を吊る時の生臭い苦しみがおっかなくて、死後の自分に脅えている。人は誰でも糞尿袋さ、体から汚物がはみ出すのも死後の事なのに心配してしまう……うまく『エリーゼのために』
深海魚の一匹がこちらを振り向いた。マンドルラのような形に黄色の目玉が埋め込まれた、妖しい、海溝に眠る鉱山物を連想させた。そいつが僕らを視ているようで、その実、別の空間を凝視しつつ歌った……まるでそいつは、水晶の畸形だった。
マヘル・マヘル・マヘル・マヘル――と、『エリーゼのために』唄った。
夏暮は仔細に書き留めている。
おわり
水海館にて @alfirjg7k4ht
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