特急人生

七星 ナツキ

特急人生

 「次は──、──。お出口は右側です」

 「The next station is ──.I 7アイセブン

《ガタンゴトン……》

 気がついたら私は電車に乗っていた。乗ってる間に寝ちゃったのかな。少し距離を置いた両隣りにひとりずつ、大人に挟まれて座っていた。ひとり電車に揺られる中、ふと違和感を感じる。なんでだろう、窓の外の景色になんだか懐かしさを感じた。

《ガタンゴトン……》

 辺りを見回しているうちに駅に着いたみたい。子供が何人も電車に乗ってきた。でもみんな席には座らない。なんでだろう?

 「次は──、──。」

 「The next station is ──.I 8アイエイト

 次止まる駅の名前はよく聞き取れないけど、どうやら各駅停車みたい。ナンバリングって便利だなぁと思った。しばらくしたら次の駅に着いた。今度は誰も乗り降りしない。なんで一駅でこんなに差があるんだろう?

《ガタンゴトン……》

 さらにその次の駅では何人もの子供たちが降りていった。入れ替わるようにしてほぼ同じ人数の子供たちが乗ってきた。なんでだろう?特に気に止めることもなく居心地のいい電車での時間は過ぎていった。

 「The next station is ──.I 10アイテン

《ガタンゴトン……》

 乗ったり降りたり、たくさんの子供たちが二駅ごとに入れ替わっていた。へんなの。でもそのまま乗り続けている子もいるみたい。私は心地よく電車に揺られていた。



 「──、──。~~線はお乗り換えです。」

どうやら乗換駅に着いたみたい。人の流れが活発になった。中学生だろうか?制服に身を包んだ子供たちが乗り込んできた。近くに学校があるんだろう。車内には立ったままの多くの学生さん、座っているのは私と二人の大人だけ。様変わりした車内は少し異様な感じがする。

 「次は──、──。」

 「The next station is ──.I 13アイサーティーン

《ガタンゴトン……》

 今度は各駅で乗客が入れ替わっていた。しかも同じ制服を着た中学生ばかり。最寄り駅という言葉の意味が一瞬分からなくなっても仕方ないと思う。変な路線だなとは思いつつも、まだ目的地に着いてないことはなんとなく分かるので乗り続ける。



 「──、──。~~線はお乗り換えです。」

 おっと、乗換駅か。また人の流れが活発になり、入れ替わるようにまた別の制服を身にまとった人たちが乗り込んできた。彼らもまた立ったままだ。その手にはスマホや単語帳など多種多様な物を携えている。

 「次は──、──。」

 「The next station is ──.I 16アイシックスティーン

《ガタンゴトン……》

 不思議な各駅停車の旅は続く。しかし次の駅では人の入れ替わりはあったものの、その次の駅ではなかった。なかなか法則が見い出せないが、まぁ本来路線なんてそのようなものだろう。



 「──、──。~~線はお乗り換えです。」

 いつの間には懐かしい景色は途絶え、また別の乗換駅へ到着したようだ。今度は制服の学生は下車し、私服の若者ばかり乗車してきた。そして学生達に一足遅れて私の両隣りに座っていた大人が立ち上がり、降りていった。なんだか寂しい感情が渦巻くが、彼らには別の目的地があるのだろう。仕方の無いことだ。電車の長椅子にひとり座るのは贅沢に感じつつも慣れずにいる。

《ガタンゴトン……》

 「次は──、──。」

 「The next station is ──.I 21アイトゥウェンティーワン

 おや?どうやらこの電車は各駅停車ではなかったようだ。ひと駅飛ばすようになってきた。高速で流れゆく車窓を眺め、ただ電車に揺られていた。この路線の行く先には、私の目的地には何が待ち受けているのだろうか。実際に行けば分かる、しかし行かねば分からぬ。

《ガタンゴトン……》



 「──、──。~~線はお乗り換えです。」

 乗換駅か、駅名は相変わらず聞き取れなかったが気になったので駅の看板に目を向ける。何故だろう、字がぼやけてよく読めない。しかしナンバリングは「I 23」を示していた。随分と遠くへ来たものだ。私服の若者は下車していき、スーツを着こなした老若男女に車内は包まれる。ひとり座っているのは慣れたが寂しい。誰か一緒に座ってくれる人を探したいものだ。

《ガタンゴトン……》

 「次は──、──。」

 「The next station is ──.I 27アイトゥウェンティーセブン

 この電車、さらに駅を飛ばすようになってきた。その中で今までのような大きな人の入れ替わりはなく、疎ら疎らに入れ替わるようになっていった。未だにこの路線は理解し難い。最も一番長く乗り続けている私が一番よく知っているはずなのだが。まぁそれも一興だろう。



《ガタンゴトン……》

 電車はさらに加速する。

《ガタンゴトン……》

 電車はさらに駅を飛ばす。

《ガタンゴトン……》

 電車はさらに乗客を入れ替える。

《ガタンゴトン……》

 電車はまだまだ目的地には着かない。

《ガタンゴトン……》

 「次は──、──。」

 「The next station is ──.I ==アイ==

《ガタンゴトン……》

 「まもなく──、──。」《 《ドガッシャーン!!》 》《キキーッ──》

 次の駅のホームに入る直前、爆音と共に電車が大きく揺られた。急ブレーキの嫌な金属音が鳴り響く。怖い、怖い、怖い!必死に座席を掴む。体が大きく揺さぶられる。止まれ止まれ止まれ──

 電車は速度を落としていった。ひび割れた車窓からはホーム手前にある踏切の遮断機がひしゃげているのが見えた。事故だ、ぶつかった。そしてようやく停止した。


 「お客様にお知らせします。ただ今──駅到着直前、踏切事故が発生しました。」

 「運転再開まで長時間かかることが予想されます。前方の車両より駅のホームへお降りいただけますようお願い申し上げます。」


 かなり大きな事故だったらしい。目的地にはまだ遠いが電車は止まってしまった。動きそうにはない。仕方ないので降りよう。

 私と入れ替わるように、何名もの救急隊員と思しき人が「大丈夫ですか!?」と叫びながら車内へ入る。これからどうしよう?そうだ、せっかくだから散策しつつ、何か美味しいものでも食べに行こう。いつも多少の紙幣は持ち歩いているし、いい気晴らしにもなるだろう。


 私は六枚の硬貨を手に、川沿いの駅を後にした。

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