3.入学

「これよりセントハーバー魔術学校の入学式を執り行う。一同、礼」

 学校長より始まりの挨拶が述べられ、その場にいる全員が頭を下げた。

 メイビスさんに魔術学校に入れと言われた日から半年が経ち、無事にセントハーバー魔術学校に入学することになった。

 以前の私だったら場違い感が溢れ出ていただろうが、今はステラ・シルフィフォードとして式に参列している。

 見渡すと確かに格式の高そうな生徒との顔ぶれが並んでいた。

 今日からやっていけるのだろうか…。

 と、内心で不安になり、すでにもう帰りたくなってきた。

「以上を持って第104回セントハーバー魔術学校、入学式を終了とする。一同、礼」

 その言葉を持って長かった入学式が終了となった。

 クラス毎にホールから退出し、最後尾の列である私も周りの流れに従う。

 最後まで慣れない空気の中、私たちは入学式前に案内された教室へと足を運んだのだ。

「はぁ…疲れた」

 小声ではあるが、そんな心の声が無意識に発せられていた。

 ふと我に返り、誰かに聞かれていないだろうか心配になった私は辺りを見渡すが、案外みんな自分のことで精一杯らしい。

 ほっと一安心していたところに担任の先生であろう人が教室の扉を開けて、教卓の前に資料等の荷物を置いた。

「はい、みなさん。入学式お疲れ様でした。席に着いてください」

 そんな優しい口調の声掛けがあり、教室内の…たった10人しかいない生徒が各々に割り当てられた席に座る。

「ではみなさん、改めまして入学おめでとうございます。私はこのアリエスクラスを担任するスフィーナ・メルドです。よろしくお願いしますね」

 爽やかな自己紹介にささやかではあるが、自然と拍手が起こった。

 どうもどうもとスフィーナ先生はお辞儀をし、唐突にパンと手を叩く。

「自己紹介はこれぐらいにして、早速ですが皆さんにテストを行います」

「「!!!」」

 早速過ぎる先生の提案に、教室内に緊張感が走る。

 流石の展開に動揺が隠せないが、こういう時はメイビスさんの言葉を思い出すに限る。

「落ち着かないなら一回死んどくか?」

 いや、絶対に違う。

 言ったこと自体は違わないが、絶対に今思い出す言葉ではない。

 いや、人生の中で思い出す自体が間違っている。

 そんなことを頭の中だけで整理していると、先生は付け加えてこう言った。

「みなさん、そんな慌てないでください。ただの魔力測定ですよ」

 な~んだ。ただの魔力測定か。

 って、魔力測定とはいかに。

 周りを確認すると何だかみんながほっとしている。

 もしかして知らないの私だけなんじゃ。

「では席ごとに測定していきましょうね」

 はい、と一番前に座っている子が席を立つ。

 あまりにもスムーズな展開にジッと観察することしかできない。

 幸い私の席は一番後ろの端っこである。前の人が9人いるのでやり方を見て真似すればいい。

「一応説明しますが、いつも魔法を使うようにこの水晶に魔力を注いでくださいね。ただ全力で送ればいいだけです。今のあなたの魔力量が数値で分かります」

 うんうんとみんなが頷くので、私もつられて首を振る。

 初めの子が両手で水晶を包み、魔力を流していく。

 水晶は紫に点滅し、徐々に光が大きくなっていった。

「きれいだなぁ」

 思わず口に出した言葉は、みんなも思っていたことなのか誰も不審に思わない。

「はい、いいですよ」

 近くで見ていた先生がそっとOKサインを出す。

 そして続け様に。

「数値は22ですね。優秀です」

 その言葉を聞いて安堵の表情で初めの子は席に戻った。

 そして次の生徒に順番が回る。

 なんだ、こんな簡単なこと。と安心していた矢先、以前にもこんな会話をどこかで聞いたことを思い出す。

「数値は20。平均ぐらいですね」

 その言葉を聞いて完全にフラッシュバックする。

「魔法学校の生徒の平均は20」

 メイビスさんがそんなことを言っていたような。

 その後のやり取りを思い出すと自分の血が引いていくことが分かった。

「数値は21」

 やばいやばいやばい。

 確かメイビスさんは半年前で3000とか言ってなかったか?

 あの時はどうでもいいことだと片付けていたが、今はそうも言ってられない。

「数値は18」

 そんな気の動転から意識を覚醒させ、あと何人なのか確認する。

「それでは次の人」

「…はい」

 私の席の前のローブを被った子が立ち上がる。

 そして水晶の前に立ち、恐る恐る手をかざす。

「……っ!」

 声にならない意気込みとともに水晶に魔力を送る。

 その時水晶からふわっと風が吹いた。

「え、200…。こんなことって」

 先生は数値を確認し、目の前の生徒の顔を見る。

 その子はさっきの風でめくれたフードとさらけ出した黄緑色のツインテールをさっと直した。

 しかし後ろの席からでも確認することが出来たが、あの長い耳は確かにエルフ族である。

「あなたは…」

 先生が何かを言おうとした時には、エルフの子は自分の席に向かって走り出していた。

 そのまま席に着くと辺りが何だかざわついている。

 肩身が狭いのであろう、エルフの子は下を向いたまま動かない。

 そんな時間が続く中、先生は仕切り直しをする。

「あ、まだ途中でしたね。最後の方、どうぞ」

 その言葉を聞いてとうとう自分の番が回ってきたことを思い出す。

 と、同時に不安と焦りもこみ上げてきた。

 やばいぞ、この空気の中測定したくない。それに下手なことも起こせない。

 ない頭をフル回転し、穏便に済ます方法を考える。

 手を抜く?どれぐらい。いっそ体調が優れないとでも言う?

 いやいやいや、逃げちゃ駄目だ。

 なら少しだけ魔力を注ごう。百分の一ぐらいで。

「ではどうぞ」

 そこまで考え抜いてそっと手をかざす。

 ほんのちょっとだけほんのちょっとだけ。

 心の中でそう唱える。

 徐々に水晶の光が大きくなっていく。

 そんな光に魅了され、気が付いた頃には。

 パッリィィィィィン。

 そんな音が教室を反響していた。

「……あ」

 静まりかえった教室で私の声だけが耳に届く。

 これは明らかにやってしまっている。

 胃が痛いとはこのことだった。

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いつかこの国を滅ぼす魔法使い とぉ @ayameken

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