2.魔力量


「くっおらぁ!これぐらいで弱音を垂れんな!」

「いや!っ無理!」

 メイビスさんと暮らして一ヶ月が経った。

 現在僕たちが行っているのは、日課の魔法訓練である。

 いくら強い魔法を使える者がこの世界では偉いとは言え、上空百メートルのところにホウキ一本の上で逆立ちをさせられるのは違うと思う。

 メイビスさん曰く、ホウキを浮かすマナ消費と逆立ちをすることによる筋トレ、そして一歩間違えれば死ぬという精神力上昇の三点お得セットなのだそうだ。

 それにしてもこれは違うと思う。

「もう…限界」

「甘ったれんなぁ!まだまだこれからだー」

 メイビスさん、スパルタ過ぎる。さっきから言ってること全部精神論なんだよなぁ。

 そしてこんな特訓を一ヶ月もよく耐えてるよね…僕。

「よぉし、一旦降りて休憩だ」

 一旦なのかよ…。またこれやるの?

 とかいうツッコミもままならないまま、地上に足を着く。

「だー、はぁ…」

 疲れたとか感想も言えない。ただただ息を整える。

「疲れたか?ステラ」

「超疲れました」

 素直な気持ちを述べるとメイビスさんは、ハアとため息をつく。

「こんなことで疲れるとは…。私なら一日中だって余裕だぞ」

「化け物め」

「何か言ったか?」

「いえ、何も」

 聞こえない程度に小声で言ったが、どうやらかろうじて地獄耳に届いていたらしい。

 地面に横たわり、目を閉じると風の音が心地良かった。

 このまま寝てやろうかと思っていた矢先、メイビスさんはおもむろに口を開いた。

「なぁ、ステラ。魔術学校に通うことに興味はないか?」

「…え?」

「だから魔術学校だよ。元スラム住みでも聞いたことぐらいはあるだろう?」

「まぁ、聞いたことはありますけど」

 魔術学校。それはこの地方に住む者なら誰でも知っているような場所だ。

 しかしスラムに住む者は通うことはおろか、その存在を見ることも許されないような神聖な場所。実際に僕も噂程度でしか聞いたことはなかった。

「主に貴族のボンボンか、魔力適正の高い者しか入学を許可されてないからな。聞いた程度しか知らないのも無理はない」

 メイビスさんは腕を組むと豊胸が自然と前に出る。

 その姿に見とれていた訳ではないが、言葉に詰まったところをメイビスさんは言葉で追撃してくる。

「まぁ私みたいに魔力量が高すぎると、どの魔術学校からも推薦がきたものだがな!ガハハ!」

 高らかに笑っているが、ガハハなんて笑い方する人本当にいるんだ、というところに意識がいってしまって話が全然入ってこないっす。

「何であれ、僕みたいな魔力が乏しい人間には縁のないところですよ」

「ん?今、何て言った?」

 分かりやすく聞き直してくるものだから、あえて言い直さないでいるとメイビスさんはニヤリと笑う。

「お前は誰だ?」

「…ステラ・シルフィフォードです」

 この一ヶ月で文字通り死ぬほどたたき込まれた質問。

 とうとう僕は身も心もステラさんになりつつあるらしい。

「そうだ。我が娘ステラなら、望む魔術学校に入学出来よう」

「そんなうまい話……」

 半分呆れていると、メイビスさんは地面に何やら絵と文字を書き出す。

「いいか。お前のちっぽけな脳みそにも分かるように説明するとだな」

 イラッ。いちいち言い回しがネチっこいんだよな、この人。そんなことハッキリ言うと殺されて蘇生されられるが。

「一般人が持っている魔力量は平均で10ぐらいとしよう。それに比べて魔法学校の生徒の平均は20。ちなみにターナ時代のお前の魔力量はたったの5.ゴミめ。さて今のステラの魔力量はいくらだと思う?」

 数値化した上でも質問。確かに分かりやすくはあるが、質問内容としては優しくない。何故なら魔力量なんてものを測ったことなんてないのだから。

 とりあえずメイビスさんの話から推測できる答えを言ってみる。

「25ぐらいですか?」

 望む魔術学校に入学出来る。それなら魔法学校の生徒の平均を超えていてもおかしな話ではない。自分にそんな魔力量があるのかという疑問はさておき。

「チッチッチ。残念だが違う」

 人差し指を横に振り、もったいつけてメイビスさんは口を開く。

「3000だ」

「…は?」

 あまりにも想像していなかった答えに今度ばかりは呆れずにいられなかった。

 開いた口が開きっぱなしの僕に対し、メイビスさんは不適に笑う。

「私はその百倍以上だがな!まぁ、この話はまた今度にしよう。ほら!もう一回ホウキに乗れ」

「えぇー…」

 色々とツッコミたいことを一言で要約し、重たい腰を上げたのだった。

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