いつかこの国を滅ぼす魔法使い

とぉ

エピローグ

この世界は弱肉強食だ。

 弱い人間は力を持つ人間に逆らうことさえ許されない。

 力こそ、この世の全てなのだ。


 スラム外――

「おら!立てよ、ゴミ虫!」

「っ!フゥ。ふぅっ…!」

「きゃはは!コイツ生まれたての子鹿のように震えてやがらぁ」

 息を荒げ、立つのもやっとの状況のまま霞む目を気合いでこじ開ける。

 周りの人間は我関せずといった態度で見て見ぬフリを決め込んでいる。

「おい、悔しかったらお得意の魔法で抵抗してみたらどうなんだー?」

 半分笑いながらそう言うガキ大将は、周りの取り巻きに手出しするなというジェスチャーを送る。

 魔法。

 この世界では日常的に使われ、誰もが体内に宿るマナを使い行使することが出来る。

 しかし、その魔法は使う者の技量が問われ、より強い魔法を使える者がこの世界では偉いとされていた。

「…くそっ!」

 なけなしの力を振り絞り、魔法で起こした風をガキ大将に向けて放つ。

 ひゅん、と小さな音をたて、ガキ大将の頬を撫でるように通過しただけ。

 それでも振り絞って形成した魔法は小さな役割を果たしたのだ。

「…てめっ!」

 ガキ大将はすぐには気が付かなかったが、自身の頬から流れる一滴の血にお気を召さなかったらしい。

「殺す!」

 その言葉と共に放たれた炎の魔法は人一人を焼き殺すのに十分な火力であった。

 あぁ、死んだ。

 少しでも生き残るかも、とかいう希望が見いだせないのは目の前に迫ってくる火炎玉を見ればすぐに理解できてしまう。

 くっそ。

 法律も秩序も関係ないスラム外に産まれ、いつ飢え死ぬか分からないまま今日まで生きてきた。

 体が小さく、力もない僕が生き残るには誰かに媚びを売るしか選択肢がなく、ガキ大将に従順する毎日。それが気に入らないからっていう理由で攻撃され、最後がこれだ。

 こんなのってあるかよ。

「ぐあっあぁぁ!」

 後悔する暇も与えないと、火炎玉は無慈悲にも僕の身体を包み込む。

 全身を満遍なく焼かれ、痛くて痒くて声も出ない。

 五感を全て奪われる中、思考だけは止まることを知らなかった。

 もはや永遠とまで思われた灼熱の地獄にハッキリと認識させられるきれいな声。

(生きたいか?少年)

 その声の持ち主が誰だか皆目見当もつかないが、なおも語りかけてくる。

(生きたいか?)

 生きたいか?だって?

 死ぬ間際に妄想でもしているのか、潜在的に自分で生きたいと思っているのか。

 そんなことはどうだっていい。

 こんなくそったれな人生でも何も成していないまま死ぬのだけは嫌だ。

(生きたいのなら、全てのマナを使え)

 あぁ。どんなことだってやってやるよ。それで生きることができるなら!

「っっ!」

 僕は何も考えず、ただ纏わり付いてくる火を払うようにマナを放出する。

「よ…やっ…、…ねん」

 霞む意識、ノイズがかかった音、スースーする鼻。そしてうっすらとしか見えない目。

 その状態で認識できたのは僕の前に誰かが立っていることぐらい。

「な…んだ、お…!」

「…さ…、…れ」

 何が起こっているのかまったく分からないが、僕はそこで意識が途絶えた。

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