運命

@kimiyama

第1話

ここは平和な国、日本。

そう思っていた。


目の前で少年や少女が銃に弾を込めている。

「大変だよなあ。」

ツンツン頭の僕より大きい背をした彼が言った。

僕は蔑むように彼に言う。

「何がだよ。」

「あの子供たちだよ。だって、こんな暑い中銃なんか構えて何がいいんだ。」

「知らないよ。そんなこと。」

「お前、俺に対して少し冷たくないか?」

そう言った途端、少し焦った口調になって彼は言った。

「おっと、悠長なことを言っている場合ではなくなってきたぞ。ほら、見てみろよ。」

そう言われて前を見た。

「!?」

「俺たちも、もうすぐやられる。残っていられるのも時間の問題だ。そろそろ腹を括らないとな。」


少女の額に汗が流れ落ちる。

よく見ると銃を構える指が震えているのが分かる。

次の瞬間大きな音が鳴り響いた。

…外した…!

後ろで大人が笑っている。

声は聞こえないが、嘲笑うようにして下手だなとか、こう構えるんだと身振り手振りで会話しているのが分かった。

再び銃口がこちらを向いた…。

日に日に増えていく傷。敵は笑いながら平気で銃をこちらに向けてくる。自分は動けない。…ドクン…ドクン……。一気に緊張が走る。

ダン!

日に日に減っていく仲間…。

銃声が聞こえると同時に後ろにいた仲間がドサリと倒れた。…助かった…自分は…。他人の心配をしている余裕はない。


…何故自分はこんなところにいるんだろう。まるで処刑台じゃないか。生まれた時のことは覚えていないけれど、山にある小さな工房でおじいさんとおばあさんと暮らしていた。夢もあった。子供の声が聞こえてくる家庭で、自分が幸せに暮らすこと。平穏な毎日を過ごす日々。ただただ当たり前の幸せを願っていただけなのに……。


もう一度あれを狙ってみろと言わんばかりに、自分を指さしニヤリと、薄気味悪く大人が笑った。少女がさっきよりも姿勢を低く銃を構え直した。

…ドクン…ドクン……。

もうダメだ!!少女から目が離せない。くる!と思ったその瞬間、違う場所から銃声が鳴り響いた。

敵か味方か!?少年がやってきて、ガムをクチャクチャさせながら少女に話しかけた。

「お前、俺と勝負だ。アイツを早く打った方が勝ちな!」


少年の方に目線を凝らすと、さらに後ろには数人の子供兵がいた。そこには監視役の大人も数人。この暑さでみんな狂ってしまったのか…。自分は殺されるために生まれてきたのか…。このことをおじいさんは知っていたのかもしれない。こうなることを。信じていたのに…。

ふと、別れ際に言われた言葉が頭による………………

「子供と仲良くな。」


飛び交う銃弾…肩に激痛が走る。

ううぅっっ!

痛くても声が出せない。少年少女のどちらの弾が当たったのかも分からない…

続いて胸にも衝撃が走った…!

やられた……

気を失う瞬間、大人が少女の頭を撫でているのが見えた。

よくやった。と言わんばかりに…………。

時間が止まったかのように深い深い谷底に落ちて行く感じがした…………。


ここはどこだ……。知らない天井……。

気づけばベッドに横たわっていた。

……誰かに助けられたのか…?身体中に痛みが走る。

痛みを堪えながら、向こうの方を見た。向かい側の部屋では、テレビの音が聞こえた。

…おじいさんの工房でもテレビがついていたな。このニュースをよく一緒に見ていたのを思い出す…。一滴の涙がこぼれる…。もう二度と会えることはないだろう…。


誰かの声が聞こえる。

「お母さん、今日の夕飯何?」

きゃっきゃっと無邪気に笑う少女の声だった。

ここは安全な場所なのか…。また、気を失いかける。

「あぁ、今度目覚めた時あの全てが、悪夢が、夢でありますように…。」

息をするように涙がこぼれ落ちた。



どれくらい時間がたったのだろう…。

部屋から見える窓の外は、まるで絵に書いたような茜色をしていた。

「「次のニュースです。」」

「「今日は全国的に晴れて、各地では夏祭りが開催されました。」」

「お母さんテレビ見てー!お父さんと行った夏祭りが出てるよ!!ほら早く早く!!」

「今日射的でね!クラスの子と勝負したんだよ!今ベッドに寝かせてるやつ、私が取ったの!!」

「ダーン!ダーン!って!」

「凄いわねえ!」


ここは平和な国、日本。


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