記憶の煌めき。

可那sima。

1

『…こんにちは…。』


『いらしゃいませー』


花原悠が訪れたのは都会のビル群の中にひっそりと営んでいる喫茶店『Soulcafe』

このカフェに来たのには理由があった。


パチンコに競馬、ボートレースに競輪。ありとあらゆるギャンブルに手を出した僕は追加の資金を手に入れるためにネットをあさっていた。

するとある日、Twutter「金の亡者」というアカウントからダイレクトメールが来た。


『金がほしくはないか?』


「…!?」


全く訳がわからなかった。

突然カネが欲しいかとTwitterのDMで聞かされても詐欺の類としか思えない。

「金の亡者」へ返信するのはやめようと思っていた。


しかし2日後、またDMが届いた。


『だから、金が欲しくはないか?』


欲しい。金は欲しい。

僕は欲に負けてしまったのだ。

どうしよも無い欲だ。


『欲しいです。』

返信してしまった。

もう後戻りはできない。


返信はすぐに返ってきた。


『ならSoulcafeに行ってみろ。』

カフェ。なんでカフェなんだ。

どんどんわからなくなっていく。


『Soulcafe?』


「ああ。」


『なんでSoulcafeに行けば金が手に入るのですか?』

シンプルな疑問だ。

なぜカフェで大金を稼げるのか。


『あそこは記憶の欠片を売ることができるんだ。』

記憶を売る。

なぜ記憶を売って大金が手に入るのだ。

そんなのSF映画の世界だけだ。


『…本気で言ってるんですか…?』

とても信じれない。

特殊な詐欺かYouTuberの規格かどちらかだと思っていた。


『本気だ。』

もうわからない。


『場所の住所を送る。いったん行ってみろ。』

住所が送られ、YouTuberの企画では無いと確信した。

もう後には下がれない。

行くしかないと決心を決めた。


そしてその後、「金の亡者」とは連絡が取れなくなった。

アカウントごと消えていた。

どんどん怪しさが増していき、恐怖感も比例して大きくなっていく。




『いらっしゃいませー』

そこにいたのは、いかにもこだわったコーヒーを作りそうな渋いおじさんだった。

この人があのDMを送ってきた本人とは思えないほど優しそうなおじさんだった。


『ご注文は?』

マスターに聞かれた。

コーヒーを飲みにきたのではない。

記憶を売りにきたのだ。


『あの…』


『はい?』

意を決して言った。


『記憶の欠片を売りたいのですが…』

言ってしまった。

もうどうにでもなれと思った。


『……』


『わかりました。

 どのような記憶をお売りになられますか?

 おすすめは両親との記憶ですよ?』


なんてことを言うのかと思った。

でも、両親の記憶なんてもうどうだっていい。

記憶を売るだけで金が手に入る。

臓器を売ったわけでもなく突然大金が手に入る。

両親の記憶より僕は金を取った。

記憶に残っているのはうるさくて毎日怒られていたことばかりだ。



『…わかりました。いくらですか?』


『1000万円です。

 では記憶を拝見させていただきます。』

あまり驚かなった。

むしろ驚かない自分に驚いた。


昔の拷問器具のような装置を付けられ眠った。


見えた映像には、三年前に死んでしまった母が映っていた。




『悠?大人になったら何になりたい?』

何気ない母との会話だった。

でもなんでこんな話がピックアップされるのか。

不思議で仕方なかった。


『僕は、警察官になりたい!!』

なんとなく思い出してきた。

昔警察官になりたいと思って言いたことを。

なぜなりたいのかはもう完全に忘れているが。


『なんでなの?』

僕が聴きたかったことは母が聴いてくれていた。



『僕はお父さんが大好きだから…お父さんみたいな立派な警察官になって褒めてもらいたいんだ!!』



『はっ!』



『目が覚めましたか?』


『はい…あの、今からでも記憶を売らないようにはできますか?』

こんな記憶売ってはいけない。

思い出したのだ。

僕はお父さんに褒めてもらいたかった。

あまり家にいなくて遊ぶことも少なかったお父さんに褒めてもらいたかったのだ。

こんな理由でもなりたいものを思い出せた。

それだけで十分だ。

1000万位以上の価値がある。


『はい。大丈夫ですよ。』

マスターは笑顔で答えた。


『すいません…

 さよなら。』



気づけば僕は店の外にいた。


僕は警察官になりたかったんだ。


ギャンブルなんてやってる場合じゃない。


僕は警察官になるんだ!!


その日から僕は警察官になるために猛勉強した。

そして無事試験に合格した。




あれから数年の月日が流れた。


あの日あのカフェに行ってよかったとずっと思っている。


あの時のマスターに感謝だ。

おかげで警察官にお父さんに褒められたし、何よりやりがいを感じている。





『マスター。』


『何でしょうか?』


『あんなこと進めるからもうからないんだよ。

 親の記憶とか絶対心変わりしちゃうだろ?』


『まぁ元々買い取ろうとは思ってませんからね。』


『一人の人生を変えることができただけで僕はうれしいんですよ。』


『…俺もそう思うんだけどね…』


『だからこのカフェに通っちゃうんだよな。』

マスターと男はカウンター越しに楽しそうに話している。


『…こんにちは…』


『いらっしゃいませー』


また一人の人生が変わる瞬間を見れることを喜んでいるマスターと花原悠の父だった。

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記憶の煌めき。 可那sima。 @hinase305

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