第6話:滅亡・王家執事長視点

「殺せ、王族を皆殺しにするのだ、皆殺しにすれば精霊様のお怒りが解けるぞ!」


 暴徒達がもう直ぐ近くまで押し寄せてきています。

 あの時私が弑逆を断行できていれば、ここまで惨めな状態にはならなかった。

 ですが、情けない話ですが、弑逆の決断ができませんでした。

 ぐずぐずと思い悩んでいる間に、王都の民が蜂起し、それに下級兵士が加わり、今では騎士や徒士まで加わっています。


「王太子だ、王太子を見つけたぞ、できるだけ苦しませて殺せ!

 苦しませれば苦しませるほど精霊様はお喜びになるぞ!」


 暴徒共が残虐非道な事を言っていますが、恐らくデマや迷信のたぐいでしょう。

 あの聖女様が、そのような事を望まれているとは思えません。

 貧民を思いやり、公爵家の財宝を惜しみなく使い、食糧を与えておられました。

 いえ、もしかしたら、あまりの怒りに、狂気に駆られておらるかもしれません。

 聖女様は、時に精霊をその身に宿すともお聞きしましから。


「うぎゃああああああ!」


 厳重な宝物殿の扉の外から、王太子殿下の断末魔が聞こえてきました。

 散々男に嬲り者にされた後で、火傷の傷跡に砂をすりこまれ、激痛苦の果てに手足の骨を砕かれ、最後に肛門から串刺しにされるのです。

 暴徒共が蜂起してから、捕らえられた貴族士族がそうやって殺されてきました。

 身勝手な王家がわずかな水を独占した事で、民は水を手に入れられなくなり、激しい渇きの中で、怒りが暴発したのです。

 暴行と殺戮の衝動は恐ろしい残虐さになって表れています。


「殺しておくれ、お願いだから殺しておくれ、頼む」


 王妃殿下が側仕え殺してくれと哀願されておられます。

 身体中の火傷の痛みで苦しんでいても、死を願う事のなかった王妃殿下が、暴徒の報復に恐れておられます。

 女官達は、互いの心臓を短剣で刺し貫き自殺する心算のようです。

 みな覚悟の籠った眼をしています。


「余も殺してくれ、これ以上苦しむのは嫌じゃ。

 もう楽にしてくれ、もうこれ以上苦しむのは嫌なのじゃ!」


 なんと無責任で身勝手な方なのでしょうか!

 せめてここは、自分の命と引き換えに女官を助けて欲しいと、暴徒共に申し出るのが、国王としての矜持であり義務でしょう。

 それを、自分が楽になる事を優先するとは、情けないにもほどがあります。


「お前達の所為だ、お前達の所為で、私達は死ななければいけないんだ。

 お前達さえいなければ、私達はこんなみじめな死に方をしなくてすんだんだ。

 それを楽にしてくれだって、誰が楽にしてやるもんか。

 散々暴徒に嬲られてから死ぬがいい、キャハハハハハ!」


 女官の一人が狂ったように叫んで相方の女官の胸を短剣で刺し貫きました。

 自分も相方の女官の短剣で胸を刺し貫かれて死にました。

 壮絶としか言えない死にざまですが、これが彼女達の最後の矜持なのでしょう。

 あの時王家の方々を弑逆できなかった私が、彼女達の想いを踏み躙るわけにはいきませんね。


 国王陛下と王妃殿下には、暴徒共の生贄になっていただきましょう。

 そうすれば、女官達の遺体が辱められないかもしれません。

 いえ、陛下と殿下の事などどうでもいいです。

 女官達が死んだ後で辱められないように、宝物殿に火を放ちましょう。

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精霊の聖女を王太子が口汚く侮辱し、婚約破棄を宣言してしまいました。 克全 @dokatu

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