第5話:忠義・王家執事長視点

 まことにもって愚か極まりない事でございます。

 あれほど、口が酸っぱくなるほどお諫めしたのに、このような事になりました。

 今更どれほど詫びを入れても、精霊様達の怒りが収まるはずがございません。

 間を取り持ってくださる聖女様まだ激怒させておいて、どんな手段が残されていると思っているのでしょうか。

 もう取り返しがつかない事でございます、この国は滅ぶしかありません。


「いたい、いたい、痛いぞ、何とかしろ、薬を持て。

 いや、それよりも貢物だ、貢物を贈って詫びを入れるのだ。

 宝物殿の物を全てオレゴン公爵に、いや、聖女様に贈るのだ」


 国王陛下が身勝手な事を口にされますが、本当に愚かな事でございます。

 どれほどの宝物を贈ったとしても、我慢の限界を超えて激怒された聖女様にお怒りを、鎮める事など不可能でございます。

 そもそも王家が蓄えている宝物の大半は、オレゴン公爵に困窮する民の食糧を購入するためと嘘偽り言って、供出させた物です。

 そのような物を贈れば、火に油を注ぐだけだと分からないとは……


「ぎゃああああああ、愚か者、もっと優しく塗れ!」


 国王陛下の苦しみを少しでも和らげようと、医師が脂薬を火傷に塗りますが、精霊様が天罰で焼かれた傷が、人間の薬で癒えるとは思えません。

 むしろ人の手で作った薬を塗れば、激痛に襲われるだけだと思われます。

 いえ、それどころか、塗ったところから腐ってくるかもしれません。

 まあ、まだ詫びようとするだけ、国王陛下はましなのかもしれません。

 愚かな国王陛下以上にどうしようもできないのが王太子殿下です。


「うぎゃああああ、いたい、いたい、いたい、痛い。

 ゆるさん、許さん、許さんぞ、雌豚が!

 ぐっうぎゃああああああ!」


 本当に愚かな方でございます、陛下と殿下の悪い所だけを受け継がれました。

 もう一人、王子でも王女でも生まれておられたら、この方が王太子に立てられる事はなかったのに……


「ぐっほっ!」


 喉が切れたのでございましょう、血反吐を吐かれました。

 喉に詰まって死ぬことができれば楽になれるのでしょうが、精霊様がそんな簡単殺してくださるわけがありませんね。

 いっそ私が楽にして差し上げましょうか?

 王太子殿下を弑すれば、精霊様達は人を許してくださるでしょうか?

 代々に渡って王家王国に仕えてきた身としては、御血筋を残し家名を残すために、陛下と殿下を弑し奉る覚悟が必要なのでしょうか?

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