第4話:嬲り者

「ふっふっふっふっふっふっ、では、馬鹿にしていた精霊の力を思い知りなさい」


 私は怒りの感情に任せて力を放ちました。

 普段は私の持つ人の常識や良識に抑えられている精霊の力が、奔流となって会場中に流れ出し、精霊を罵り蔑んでいた者を襲います。

 慎重に精霊の悪口を言っていなかった者も、精霊に本心を隠す事などできないので、同じように怒りの攻撃を受けています。


「「「「「ウギャァァァァ!」」」」」


 耳をつんざくような苦痛の大絶叫が会場中にこだまします。

 眼を覆いたくなるような、凄惨な光景が辺り一面に広がっています。

 精霊は憎んだ相手を簡単に殺してくれるほどやさしくはないのです。

 生きていくことが嫌になるくらいの苦痛と絶望に落とすのが精霊の遣り口です。

 老若男女問わず、怒りの電撃に容姿を焼かれ、まるで焼死体のように身体の表面が焼け焦げた人間が、地を這い苦痛にのたうっています。


「思い知りましたか、これが精霊の怒りです。

 今まで自分が思い上がって口にしてきたことの報いを受ければいい」


 私は精霊の感情を口にしていました。

 私自身の感情ではなく、身体に入り込んでいる、精霊達の総意の言葉でしょう。

 私は口にした言葉ほど残虐な性格はしていない、と、思います。

 放たれた報復は一度きりですが、その結果は凄まじいモノです。

 身体中を焼かれた痛みだけでなく、電撃で神経までズタズタにされています。

 これからは何かが身体に触れるたびに、今雷撃を受けたのと同じ凄まじい痛みが、再現されて身体と心を責め苛むのです。


「さて、貴方方のような汚物を何時までもここに置いておくわけにはいきません。

 早々に自分達の領地にお帰り頂きましょうか。

 では、ごきげんよう、みなさま」


 私の言葉と共に、死屍累々と倒れていた焼け焦げた人間が消えうせました。

 精霊達が汚物を転移させて、それぞれの領地に放り出したのです。

 単に身体が地面接しているだけで激痛に責め苛まれていたのに、自分達の領地に放り出されて跳ね転んだとしたら、その激痛はいかばかりだったでしょうか。

 そう思うと、無意識に笑顔が浮かんでしまいます。


「やっと精霊に領地に相応しい奇麗な状態になりましたね。

 汚物の腐敗臭や焼けた肉の臭いは、嗅いでいて気分が悪くなりました」


 人間の身体か焼ける臭いはとても臭くて吐き気がしてしまいます。

 哀しい事ですが、しばらく大好きな焼き肉は食べれなくなるでしょう。

 まあ、魚を食べればいい事ですし、果物も美味しいですからね。

 そんな事よりも、放り出した王侯貴族が、精霊の加護を失ったことを知った民から、どんな仕打ちを受けるかが楽しみです。


 王侯貴族が精霊を怒らせたことで、今まで送られていた地下用水路の水が止められますから、農業用水どころか飲み水すら手に入らなくなります。

 一滴も水が飲めなければ、人間は早ければ四日、長くても六日で死にます。

 でもそれでは王侯貴族が苦しむ時間が短過ぎますね。

 しばらくは渇き死にしない程度に水を送る事にしましょう。

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