第3話:婚約破棄

「国王陛下、今の言葉も、我が家を蔑み精霊を馬鹿にしていますね。

 精霊に感謝せずに、精霊から恩寵をもらえると思っているのなら、それは愚者としか表現できませんが、如何に御考えか!」


 私は一気に追い込みにかかりました。

 精霊の本拠地ともいえるこの場で精霊を馬鹿にし続けたのです。

 ここで決定的な事を口にすれば、精霊の怒りが爆発するでしょう。

 精霊が人間を忌み嫌いだしている事は、精霊の聖女である私がだれよりもヒシヒシと感じているのです。


「生意気な口をきくな、精霊臭い下賤な女が!

 お前が公爵令嬢を名乗るなどおこがましいのだ!

 まして私の婚約者だと、ふざけるな、ドブスが!

 お前との婚約など解消だ、婚約破棄だ!

 オレゴン公爵家など王国軍で攻め滅ぼし、精霊どもも捕らえて使役してくれる!」


 私の望み通りに、王太子が決定的な言葉を口にしてくれました。


「ふふふふふ、アッハッハッハ、わっはっはっは。

 これは面白い事を申される、愉快愉快、こで程愉快な話はありませんよ。

 ねえ、国王陛下、王妃殿下。

 これでカリフロ王国の滅亡が確定いたしましたね」


 私は思わずはしたない笑い声をあげてしまいまいました。

 ですがそれも仕方がない事だと思うのです。

 ここまで思い通りに愚かな行動をとってくれるとは、流石に思っていませんでしたから、最悪のこの腐れ外道と閨を共にしなければいけないと、暗澹たる想いでいたのですから。


「何を愚かな事を、驕り高ぶるもたいがいにしろ、ドブス。

 近衛騎士、この不埒者を斬り殺せ!」


 王太子が更に愚かな事を口にしてくれました。


「待て、待て、待つんだ!

 すまぬ、申し訳ない、この通りだ、許してくれ。

 余がふざけ過ぎた、いや、王家のためになのだ、許してくれ。

 王家のために、思ってもいない事、言いたくない事を口にしただけなのだ!」


 真っ青になった国王が必死て詫びています。

 これからどうなるか、愚かな国王でも想像がついたのでしょう。

 ですが、王太子は何が起こっているか分からず、未だに怒っています。

 王妃も何が起こったか理解できないようですが、流石に不味い状態なのだというくらいは分かっているようで、顔色を悪くしています。


 ドッカーン!


 乾燥したこの国には珍しく、大きな雷鳴が鳴り響きました。

 精霊の怒りが極限に達しているのは、私の胸にとめどなく湧き出す、抑えきれない怒りでも明らかです。

 精霊の聖女である私は、どうしても精霊の直接的な感情に左右されてしまうので、今の私の姿も怒りに満ちた恐ろしいモノになっている事でしょう。

 それを間近に見る王族達の恐怖は、地獄に落とされたようなものでしょうね。

 そろそろ引導を渡してあげましょう。

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