第5話 集合
「ここでお別れだね!」
「えっ」
ちょっと待てよ!小夏はノーチェの肩を掴んだ。
「俺はノーチェと一緒に魔王を倒しに行くんじゃないのかよ」
「違う違う。小夏さんは仲間と共に魔王を倒しに行くんだ」
え。俺とお前は仲間じゃなかったのか?
小夏は軽くショックを受けた。知り合ってまだ一日程度だが、勝手に一緒に戦うのだと思っていた。
「違うの。もともとわたしの役目は小夏さんをここに連れてくることだし、わたしは弱いから倒しに行くのは無理なんだ!」
「そうだったのか……?」
「そうだったんだよ。それにもう仲間は決まってるんだ」
そう言うとノーチェは「もーすぐ来るはずなんだけど~」と辺りを見渡し始めた。小夏もつられて、広場を見渡す。人がそれなりにいる。
すると、一人の女性がこちらに笑みを浮かべながら駆け寄ってきた。
まさか、この人が仲間?!小夏はどきりとした。かなりの美人だ。近づいてきた女性は一直線にノーチェを抱き締めた。
「ノーチェ様、お久しぶりでございます~」
「アルルンカ様~!元気そうで何よりです!」
二人は知り合いのようだ。
アルルンカという女性は小夏に深々とお辞儀をした。
「初めまして。アルールの聖女アルルンカと申します」
「小夏です」
小夏も会釈をする。聖女か、じゃあこの人は仲間にならないな。少し残念な気持ちになる小夏。
ノーチェが不思議そうな声を出した。
「アルルンカ様の勇者はどこですか?」
アルルンカは顔を真っ赤にした。そして小声で答える。
「実は、先程お腹を壊したようでして……その……」
「あーなるほど。分かりましたぁ」
う○ち、か。一体どんな奴が来るのだろうか。……踏ん張ってる姿しか想像できないな。
小夏がそんなことを思っていると、アルルンカが何かを思い出したように「あっ」と声を出した。
「そういえば、ついさっきミヨーハ様とホリビ様を見かけましたわ」
「そうなんですか!じゃあもう揃いますね!」
そうして約10分後、揃ったのがこのメンツである。
「あれ?女の子どこ?」
まず口を開いたのは甘いルックスの持ち主、川越清彦という男だ。きょとんと首をかしげている。
この質問にはアルルンカが答えた。
「異性が混じっていたら、ややこしくなりますでしょう?だから、同性で揃えてみたんです」
「え~。女の子がいないとオレやる気でないなー」
川越はつまんなさそうに唇をとがらせた。彼は昔っから女の子が大好き。女の子が一緒に居てくれないと、何もかもがめんどくさく思えてしまうのだ。
「そんなことより、早く魔王を倒しに行こうよ!」
アルルンカが連れてきた勇者、多田和明が鼻息荒くそう言った。メガネが息で真っ白だ。
「まずはステータスを確認しよう!」
こちらの世界に来る前から、多田は異世界の存在を信じていた。彼は異世界転生・転移の小説が大好きだ。二十冊は読んだことがある。
しかし、多田の言葉はさらっと無視された。
アルルンカとその他の聖女は五人の勇者を見渡しす。
「ここにいる五人は勇者です。力を合わせてどうか魔王を倒してくださいませ。お願いします」
そこから聖女たちはそれぞれが召喚した勇者の元へ向かった。別れの挨拶だろう。小夏の元にはノーチェがトコトコと歩いてきた。
「小夏さん、世界を救ってくださいね」
「……まだあんまり理解できてないけど、まあ、なるようになれだ。なんとかやってみる」
小夏がそう言うと、ノーチェは小夏の手をとった。手に何かを握らされる。ノーチェはニヤリと笑った。見てみると空色の丸いものだ。
「これは只のペンダントに見えるでしょ?ところが違うんだ~。
魔法でわたしと連絡がとれるようになってるの!」
「連絡……電話みたいなものか」
「でんわ?」
「いや、なんでもない。……じゃあ、魔王倒したら連絡する」
「うん!」
しばらくの間話すと、ノーチェはアルルンカに手を引かれて去っていった。家がティラノサウルスに潰され、唯一の家族であるという姉も亡くしてしまったことを話したのだ。アルルンカはノーチェを家に迎え入れるようで、二人は仲良さげに話しながら離れていった。
その光景に少し安堵したが、小夏はすぐに顔をしかめた。
魔王を倒すって……一体どうやって?
勇者はエイユウ 海野なつほ @vic_pipi
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