第4話
「そっか…お姉ちゃんがおとりになって……」
「悪い…俺がやつをひきつけるべきだったのに」
「それはダメだよ。あなたにはすべきことがあるんだから……」
小夏は森についてから約二時間後にノーチェと合流した。今は二人で木の影に腰を下ろしている。暗いし薪をしたいところだが、ティラノに居場所がバレるかもしれないので、我慢している。幸い今日は月明かりが明るいので周りはよく見える。
老朽化した樹と苔のはえた大きな岩ばかりだ。ノーチェが人形っぽいので、それも合わさってより退廃的な雰囲気になっている。
小夏はノーチェを見た。
「俺には聞きたいことがある」
「うん」
「たくさんある」
「分かってる。分かってるよ。……何から説明しようかな……そうだね、まずはなんでお兄さんがわたしの家にいたか」
そうだ。自分は死んだはずなんだ。小夏はピンと背筋が張りつめたような感覚になる。しかし、すぐにその感覚は消え去った。ノーチェの言葉によって。
「それはわたしが儀式で呼んだんだ」
「……はい?」
「お兄さんがね、この世界では必要なの。魔王を倒すためにね。そのためにこっちに呼んだんだ」
「……よく分からない」
「うん。お兄さんは向こうの世界では多分死んじゃったよね……?」
ノーチェは上目づかいで見てきた。罪悪感を感じているのだろうか。にしても話がよく分からない。
「こっちに召喚するためにはそれしか方法がなかったんだ……。今さらだけど、ごめんなさい」
「あ、ああ。……ところで、ここはどこなんだ?さっきのティラノサウルスは?」
「ここは何となく分かってると思うけど異世界なの。さっきのやつは魔物、魔王の手先だよ」
何度聞いても、WAKARANAI!!
小夏は頭を抱えた。異世界?魔物に魔王?
もしかすると、自分でも知らない内に気づかない内にヤバいドラッグに手を出してしまったのだろうか。
ノーチェは小夏の様子には気づかずに淡々と話しを続ける。
「必要っていうのは、お兄さんが勇者だからだよ」
「は?えっと……」
「だから、お姉ちゃんが死んだとしてもそれは意味のある死なのだ。お兄さんが生きている、それが重要だよ」
「……あんたの姉さんはきっと」
「死んでるよ、もう」
ノーチェはため息をついた。
「お姉ちゃんは弱いんだ。魔物に襲われて、生きて帰って来られるのは強い人だけだもん」
「……」
「そんな顔しないでよ!魔物が悪いんだからさ!過ぎたことは忘れて、さっさと前に進んでいこう!」
ノーチェは小夏をどついた。本当はノーチェの方が苦しくて悲しいはずなのに、元気に振る舞っている。小夏は顔を上げた。
「……これから俺はどうすればいい?」
「この森を抜けたところにドンボンって街があるの。そこにわたしと行くのよ。もともとそういう予定だったの」
「そうか。これからよろしくな」
「うん!よろしくね!」
翌日の昼、よりも少し前、ドンボンの街についた小夏とノーチェは『ドンボン巨大噴水広場』に向かっていた。先程から、小夏は開いた口が塞がらない。いろんな人がいた。耳がとんがっているもの、尻尾があるもの、剣を振り回している者(危ない)。しかも、すれ違う人はみな、髪を染めているのか元からなのかは知らないがカラフルなのだ。小夏は街に入った時から目がチカチカしてまともに目が開けられない。
目が~目が~、と思っていると小夏は先を歩いていたノーチェにぶつかった。
「痛い!」
「すまん」
「前見て歩いてよねぇ。もお~」
そう言いながらもノーチェはにっこりと笑みを浮かべた。相変わらず人形のようである。
そして、衝撃的一言を放った。
「着いたよ!ここでお別れだね!」
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