第3話
すぐ近くから轟音が聞こえた。それと地響きだ。
振動で部屋の灯りが消えた。
小夏はノーチェと顔を見合せた。なんだこれは。
「地盤沈下か……?いや、でも地震とは違うような……」
「ちょっと外を見てくる!あなたはわたしの食べさしで良かったら食べてて!」
「待てっ、危ないぞ!!」
小夏は後を追おうとして立ち上がる、が、ふらついてしまった。こういう時は外に出ない方が安全だというのに。
小夏は力を出すためにシチューを飲み物のように流し込んだ。味わっている暇などはない。今度こそ脚を踏み出した。走って部屋を出る。廊下は短い。突き当たりで左に曲がって、リビング、ダイニングらしきところを通り抜けて玄関のドア前まで来た。
その時、一際大きく地面が揺れた。そして、また揺れる。グラグラと揺れてはいない。縦に揺れていた。揺れる度に小夏の体は2cmほど浮く。小夏は前に進めなくなっていた。進もうとすると体が浮く。立っているだけでやっとだ。
……突然、地響きがピタリとやんだ。不気味なくらい辺りが静かになる。
今しかない。
小夏は玄関のドアを開けた。
「なっ?!」
開けたそこには巨大な怪物がいた。いや、怪物ではない。これは―――
「ティラノサウルス?!」
思わず声に出してしまった。すると、その声に反応してティラノは素早くこちらを振り向いてしまった。ばっちりと目があった。ティラノは顔を小夏に近づける。小夏の目の前には大きな牙がズラリと並んでいた。口からヨダレがボタボタと垂れている。
小夏は静かな気持ちになった。
これは夢だな。明らかに夢だ。いつものパターンで考えると喰われて目が覚めるな。……喰われるか。小夏が目を閉じた、その時だ。
「こっちです!」
腕を思い切りひっぱられた。ノーチェの姉、エミリーだ。
「早く逃げてください!裏口まで案内します!」
エミリーが家の奥に走っていく。小夏も後を追って駆け出した。その瞬間、背後から凄まじい咆哮と共に、ティラノが家を踏み潰しながら追って来はじめた。振動で転けそうになりながらも小夏はエミリーについていく。すぐ後ろにはティラノがいる。凄まじい音をたてながら狙ってくる。
裏口についたようだ。エミリーは素早く、ドアを開けて小夏を先に外に押し出した。そして、こう叫んだ。
「向こうにある森に向かってください!」
「あんたはどうすんだ!!」
「私がこの魔物を引き付けます!その間に!」
「何を言っているんだ?!死ぬぞ!」
「いいんです!……森に妹がいます。妹と合流して世界を救ってください」
そう静かに言うと、エミリーは森の向きとは逆方向に走り出した。計画通りにしっかりとその後をティラノが追いかけて行く。小夏は「待てよ!」と追いかけようとした、が、エミリーの決意に満ちた瞳を思い出した。
「クソっ。クソっっ!!」
小夏は暗闇の中、森に向かって走り出した。
骨が砕かれる音が聞こえた気がした。
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