第2話

「ノーチェだよぉ。わたしの名前はノーチェ。言葉、分かるかな?」

「……」

「寝ちゃってるの?せっかく長い眠りから覚めたのに、また寝ちゃうの?……って言ってもせいぜい五日くらいか。寝てた期間は」

「……」


小夏は頑張って目を閉じていた。人形に喋りかけられているという異様な状況が恐ろしかった。ノーチェという人形はまだ喋り続ける。


「あなたのために、わたしシチューを作ってきたのだよ?お腹が空いてるかなって思ってね」


その言葉と共に小夏の鼻の中に美味しそうな匂いがぶわっと入り込んできた。思わず唾を飲み込みそうになるがぐっとこらえる。しかし、お腹は我慢できなかったようだ。だって五日も何も口に入れて無かったんだから。ということで、盛大な音が部屋に響いた。

しょうがなく小夏は目を開ける。信じられないくらい大きな目とばっちり目が合った。ノーチェはにたりと笑みを浮かべた。


「ひっかかったー!!これはわたしのシチューだもーん!」

「……」


なんだこいつ。小夏はそう思った。

ノーチェは丸テーブルをわざわざベッドの前に持ってきてシチューを目の前で食べ始めた。とても旨そうに食べている。口に具を持っていく時にちらっとこちらに視線を向けてきた。ちょっとウザい。ついに小夏は我慢できなくなった。


「俺もシチュー食いたい」


ノーチェはぽかんと口を開いた。そして、ムフフっと笑みを浮かべて、


「なーんだ、喋れるんじゃん」

「ちょっと、ノーチェ?!あんた何してんのよ!」


声と共に女の人がずかずかと現れた。ノーチェが「お姉ちゃん!」と駆け寄る。小夏はその光景を見て不思議に思った。姉妹だけど、全然似ていない。姉は普通の外見だ。自然な美しさだ。しかし、妹のノーチェの外見は不自然に美しかった。もっと小さくしたら本物の人形になってしまうだろう。


姉が口を開いた。


「お初にお目にかかります。エミリーと申します」

「……小夏です」

「妹があなた様のご飯を食べてしまい、申し訳ございません。今、新しいのを持ってまいります。

……もうっ、あんたって子は!」


姉はノーチェのお尻を軽く叩くと部屋を出ていった。しっかりと姉が出ていったのを確認して、ノーチェは反省の色も見せずに残ったシチューを食べ始めた。小夏は体を起こしてノーチェを見た。


「なあ、あんたさ。ここどこなわけ」

「それはお姉ちゃんが説明してくれる予定なんだけど……まあ、わたしがしちゃってもいいか」


ノーチェはシチューを食べながら説明し始めようとした。


――――突然、どこかで爆発が起きた。








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