放課後の秘密
砂鳥はと子
放課後の秘密
私は受け取った封筒から、中に入っているものをそっと引き出した。
何枚も束になったそれを、ちらりと確認してすぐに戻す。
本当は一枚一枚じっくり見たかったけれど、もしクラスメイトに見られてはまずい。
中身が折れたり傷つかないように、封筒をカバンに入っていたフォルダーにしまった。
放課後になり、私は屋上へと続く階段へ向かう。ここなら誰も来ない。
私は階段に腰をかけて、さっきの封筒を取り出した。中に入っているのは写真。
先日修学旅行で北海道に行った時のものだ。
友だちと楽しそうに写ってる私の写真は適当に流し見して、目的の写真を手に取る。
そこには隣り、三組の担任である
私が一年と二年の時は担任の先生だった。
写真からも先生の明るくて快活な雰囲気が十二分に見て取れた。
私が購入した写真の半分近くは涼子先生が写っているものばかりだ。
教え子と笑顔で写っているものから、生徒たちの後ろの方に小さく写っているものまで。先生の写真は全部買った。
自分でもちょっとやり過ぎたと反省している。でも、好きな人の写真なら全部欲しくなるのは普通ではないだろうか。
「一番はやっぱり、これかな」
時計台を背景に先生と私が写っている。
唯一、二人だけの写真。
たまたま近くにカメラマンさんがいたから、お願いして撮ってもらった。
「こうして見るとデートしてる時に撮った写真みたい」
いつか叶うなら先生とデートに行ってみたい。
そんなことを夢想していたら、辺りはすっかり静かになっていた。
遠くから部活に勤しむ生徒たちのざわめきが微かに聞こえてくる。
私は階段を降りて、しーんとしている廊下に出る。
ほとんどの生徒は帰宅したか部活に向かったようだ。
周りに誰もいないことを確認して、涼子先生がいる三組の教室へ向かった。
先生は教卓でプリントをまとめているところだった。
「涼子先生!」
声をかけると、太陽のような笑顔を私に向けてくれる。
「
「写真確認するのに夢中になってました」
「写真? ああ、修学旅行のね」
「そうです。涼子先生の写真、たくさん買っちゃいました」
「えぇ? 私の? 自分が写ってる写真も買った?」
「いらなかったけど友だちが買ってたから買いましたよ〜」
私はさっきの封筒を取り出して、先生に写真を渡す。
「⋯⋯本当に私の写真ばっかり」
ちょっと呆れられてしまった。
「あれ、これ二枚ある。⋯⋯これも」
「涼子先生が大きく写ってる写真は二枚ずつ買いました! どうせ先生のことだから、自分が写ってても買わないかなって思って」
私はダブっている写真を集めて、持っていたピンク色の別の封筒にしまった。それを涼子先生に手渡す。
「別に気つかってくれなくてもよかったのに。あとで写真の分のお金渡すよ」
「お金なんていいですよ。私が勝手に買ったんですから。これは私からのプレゼントってことで。私、好きな人の写真いっぱい買えて楽しかったし!」
「もう、紗菜は可愛いな」
先生に抱き寄せられて、頭を撫でくりまわされる。先生の柔らかい体といい香りに包まれて、私はそれだけで幸せに満たされた。
「ねぇ、紗菜、私欲しい写真があるんだけど、譲ってもらえないかな」
「渡したやつ以外にですか?」
「そう。これが欲しいんだけど」
涼子先生は写真の束の中から、私が動物園でキリンの前で撮った一枚を引き抜いた。
私がふざけたポーズをしてたら、カメラマンさんに撮られてしまった。私だけが写っているのはこれだけ。
「こんな変な写真ですか? 先生が欲しいならあげますよ」
「いいの? これ一枚だけでしょ」
「他にもたくさん買いましたから。それに私の目的は先生の写真で、自分のはついでなんで」
「ありがとう紗菜。家に帰ったら飾るよ。何かお礼しなくちゃいけないよね⋯。何がいい?」
「プレゼントだからなくていいですよ。⋯⋯でも強いて言うならこれがいいです」
私は先生の首の後ろに手を回して、自分の方へと近づけさせた。
「もう、紗菜は⋯⋯」
至近距離で困ったような、でもほんの少し嬉しそうな顔で私を見ると、先生は私にキスをした。
すぐに離れていかないように、私は先生に回す腕に力を込める。
人気がない教室で、してはいけないことをしているこの瞬間が、たまらなくぞくぞくする。
廊下の奥で物音がするまで、私たちはお互いに唇を求め合っていた。
そしてキスなんてしてなかったかのように、さっと体を離す。
こんな時は時間が止まっていたらいいのにと思う。
「涼子先生、夜メールしますね」
私はなるべく小さな声で伝える。
「分かった。待ってる」
先生も同じように囁くように返す。
「先生、さようなら!」
「さようなら。気をつけて帰ってね」
私と先生はわざとらしく大きな声で挨拶をして別れた。
放課後の秘密 砂鳥はと子 @sunadori_hatoko
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