第3話

「初めまして、山口なずなです。ゆうき、ひろむ、よしたかとは小学校が同じで、中学から離れたけど今でもずっと仲が良いです。よろしく!」と屈託のない笑顔でなずなは言った。なずなは、顔はアイドル級に可愛くはなかった。クラスの二軍の女子のような顔立ちで、派手なパーツは1つもない。でも、笑顔が可愛かった。いわゆる愛嬌があるという感じなのだろうか。僕は高校を卒業してから3年もたっていて、そのうち二年は家で浪人をしていたので、異性とのかかわりは母親がほとんどだった。(悲しいことに、母親をカウントしないとほぼ0だ。)それに今年の1年は、留学のためにバイトしているだけで、新しい人間関係を作るのはバイト先で十分だと思っていた。でも、なずなだけは何故か会おうと思った。不思議だ。これが運命というものなのか…。恋愛ドラマの見過ぎだろうか。なずなは、僕に色々なことを話してくれた。僕の隣に住んでいるよしたかの昔の話から、他の2人の男子の昔話まで。男だけでは、そういうことは話さないという話題もたくさん話してくれた。楽しい。楽しい。楽しい。でも、なずなは自分のことをあまり話してはくれなかった。僕が振っても、するりとかわして、気づけば僕が話している。そのおかげで、僕は隣に住むよしたかにも、仲のいいゆうき、ひろむにもまだ話してなかったこともつい話してしまった。それは、留学だ。親戚がアメリカに住んでいるので、そこからコミュニティカレッジに通い、そこからアメリカの大学に通うという流れを考えている。(まあ、それも今世界中で流行っているウイルスのせいで、行けるかどうかも分からないけど。)僕は、ぺらぺらと留学のことを言ってしまったから、なずな以外の3人は驚いていた。すぐに「話してなくてごめん。まだ行くことがちゃんと決まったわけじゃないから、言わなかったんだ。」と言おうとした。けど、口から出たのは、「なずなは留学とか考えてないの?」だった。これは、僕の昔からの悪い癖で、つい自分が注目を浴びると咄嗟にターゲットを変えようとしてしまう。今も出た。しかも、なずなだけに振って馬鹿みたいだ。なずなはフレンドリーでいい人だけど、まだ今日知り合ったばかりだ。話を振るのは、よしたかを含める3人の方が絶対に良かった。そっちの方が自然だ。そんなことを、帰ってから考えた。あの時ファミレスでは、なずなも留学はいつかしてみたいと言っていて、そこから話が少し脱線して、海外旅行の話になった。家に帰ってから、今日のことを考えると反省の方が多いが、とても楽しかった。なずなは、今まであった女子の中でダントツに話しやすく、話が合う。あんなにフレンドリーな女子がいたんだ。悲しいことに、今まで僕にフレンドリーだったのは、母親と同じ世代の人たちだけだ。なずなにまた、会いたいなあと僕は思った。

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桜はいつ咲くのか @nmwater

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