授業参観
その日は授業参観の日だった。
朝矢の通う学校では日曜日に授業参観が行われ、翌日の月曜日が振り替えの休日となる。それはもちろん、親が参加しやすいようにという考慮なのだが、いまどき日曜日休みの親御さんも少ない。
父親は農協勤めだから普段日曜日休みなのだが、その日に限って出張とかで3日ほど東京へいっており、その日の夕方に帰ってくる予定。母も介護施設で働いているために日曜日休みがとれなかった。
ゆえに朝矢の両親は授業参観が不可能となったのだ。
「別にこんでいいけどな。もう小6やぞ。親がくるなんて、はずかしかたい」
そんな悪態をついてみるも、やはり他の子達の親が授業参観に参加するなかで、自分の親がきてくれないというのは寂しい気もする。
だけど、
だからといって、これはないだろうと朝矢は正直思った。
「ハロハロ♥️ともや~♥️」
教室のなかでクラスメートたちが一気に視線をむけたのは、朝矢の父でも母でもない。
大学生になったばかりの兄だったからだ。
目立たぬようにこっそりいてくれるならばいい。
教室に入って早々、朝矢の名前を呼ぶなり、大きく手を降ってきたのだ。
他人のふりをしようかと思ったが、それができるわけがない。
「あの軽そうな人。朝矢くんのお兄さん」
「なんかタイプまったくちがうねえ」
「背がたかいね」
などなどクラスメートのなかでたちまち話題になってしまったのはいうまでもない。
「ともやー!がんばれよーー! 手をたくさんあげろよ」
そういいながら、兄か手をあげるしぐさをみせる。そんな若者に親御さんたちも思わず苦笑いしたのはいうまでもない。
「どうも、どうも、うちの弟をおねがいしまーす」
まるで選挙運動をしているようにいう兄。
「兄貴~~!! なにしにきやがった!?」
朝矢がどなりつけたのはいうまでもない。
「もちろん、授業参観にきたにきまっているじゃん♥️」
「なんで、兄貴がくるんだよ!」
「しょうがないじゃん。父さんから頼まれたんだよ。ひまなら、朝矢の授業参観にいってこいってさ」
「はあ? あのくそ親父ーー! 兄貴にたのむやつがあるか!!」
「はいはい、とりあえず、座ろうか。有川くん。授業はじめるわよ」
しばらく様子を見ていた先生がようやく口を開いた。
「とにかく、おとなしくしてろよ。くそ兄貴」
「いいの? おれいて?」
「仕方ねえだろう。とにかく後ろでおとなしくしてろ」
そういいながら、朝矢は自分の席に座った。
そして、授業が始まる。
兄は朝矢のいうことを聞いて、それ以上しゃしゃり出ることはなかった。
後ろを振り替えると笑顔を浮かべながら、こっそり手を降るだけで親御さんたちに隠れるように後方にいたのだ。
それでも、目立つのは長身であることと保護者のなかで一番若いこともある。
とりあえず、おとなしくしてくれていることにホッとした。
けれど、授業参観が終わったあと、朝矢はクラスメートたちから兄のことで質問攻めにあってしまった。
朝矢はただ困惑し、その足元では白銀の狼がなぜか微笑ましそうな顔をしていた。
かぐら骨董店の祓い屋は弓を引く3~文化祭を彩る恋歌に舞う黒き蝶~ 野林緑里 @gswolf0718
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