神への土着信仰を軸においた正統派ファンタジーです。とても興味深く読ませて頂きました。こむらさきさんの小説はいつもキャラクターが生きている印象を受けるのですが、こちらの作品も非常に貪欲なまでの生が描かれていると思いました。酸鼻を極める状況にある主人公(死が近い)が自我を取り戻し本来の姿に戻る(生命力に満ち溢れる)という流れにカタルシスを覚えます。
宵闇の王が本当にかっこいいです、そして銀の魔女も気高く美しくかっこいい……。冒頭の言語が解される瞬間にもまたカタルシスがあり、視界がぱっと開ける場面が印象的です。王道ファンタジーが本当にお上手だなー! 銀の魔女たる所以も手に汗握りました。エンタメ小説としても面白くて、上から見ると林檎に見える建物やディエが身に着ける衣服、事切れた天使の描写などディテールも凝ってあり、想像させてくれる手腕が素晴らしいです。
本当は主ではない神に祈りを捧げていた少女が本来の主を取り戻し、王と共に夜に帰るという流れが美しいですね……。
ファンタジーの素養がない私でもすっと入り込めるファンタジーは良質だといつも思います。こむさんのファンタジーは王道かつ不幸を転じ幸せに向かう救いの色が濃い物語で、読み手を傷付けないところも魅力的だと思います。