第4話 堕ちた男

「あ、先輩。これなんてどうですか? 似合います?」


 ワンピースを体に合わせる優奈。フェミニンなデザインは優奈によく似合う。でも生地が薄いので、これから寒くなるにつれ着る機会は減っていくだろう。そうなれば来年の春までタンスの賑わいになってしまう。

 そんな俺の論評を受けて、優奈はうんうんと迷う。


「じっくり考えたらいいよ」


「じゃあ、これはどうでしょう」


 また同じようなワンピースを持ってくる優奈。

 俺はやれやれと首を振った。

 結局、俺は優奈と続けていくことを選んだ。優奈を失うことを考えると心が痛んだし、同じサークルに所属している以上気まずい関係になるのは周囲にも迷惑をかけるから。

 何も変わらなかったわけではない。あの日をきっかけに朱音とは頻繁に連絡をとるようになった。暇な時には二人で会うこともある。無論、このことは優奈に話していない。わざわざ話をこじらせるのも面倒だし、余計な心配をさせるのも億劫だ。

 俺の恋人は優奈だ。それは間違いない。

 だが、俺が朱音を愛していて、朱音も俺を愛しているのなら。恋人の有無ごときでは左右されない愛なのだとしたら。

 携帯が鳴る。優奈に断りを入れて店の外へ。

 俺には確信がある。優奈とはいつか別れる時が来るだろう。一カ月後か一年後か、もっと先か。どれだけ燃え上がろうといずれは鎮まっていく炎に過ぎない。


『もしもし、こーちゃん?』


 だが、俺と朱音の愛が尽きることはない。互いに打ち込んだ楔が、良くも悪くも俺達を繋いで離さないだろう。


『今夜も、また会える?』


 それは運命の奇跡か、計略の呪縛か。


「ああ、会えるよ。いつでも」


 どちらでも構わない。

 朱音に堕ちた、俺にとっては。

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