03 (終).

「いらっしゃいま、あれ?」


 運営の人。ビキニの上に二重のパレオ。


「来ました。遂に、現れました。挑戦者が」


「うそ」


 戦争イベントならいざ知らず、この平和なイベントしか行われていない、こんなゲーム環境で。なぜ。


「挑戦を、受けられますか?」


「そうね。少しだけ時間をちょうだい」


 ヘッドギアを外して、急いで連絡。


 今日、友達以上恋人未満のひとと会う約束だった。どこで会うかのお尋ねをして以降、テキストメッセージは止まっている。まだ既読はついていない。返信が来るまでゲームをして暇をつぶす予定だった。


 テキストメッセージを打ち込む。ごめんなさい。いま少しだけ予定ができて、少しだけ、席を外します。戻り次第、連絡します。

 送信だけして、再びヘッドギアを付ける。


「はい。じゃあ、軽く受けましょう」


「了解いたしました。戦場は」


「向こうの指定を受けます。いつも通り、観客や閲覧はなしのクローズドで」


「分かりました。では。失礼します」


 運営のひと。消える直前に、なぜか一回戻ってきて。


「あの。がんばってくださいね。色々」


「なにを?」


「いえ」


 消えた。


 すぐに、呼び出しがかかる。


 いま着ている服を確認する。ひさしぶりだ。腕は、鈍ってないかな。


 転送先。


 闘技場。


 彼。


「あら。ブーメランパンツの」


 よく来るイケメンの人だった。


「やはり、あなた、でしたか」


「あら」


「はじめて会ったときから。あなたではないかと、思っていました」


「なんかこわい」


 ブーメランパンツをはいたイケメンに言われても、なんの感慨も湧いてこない。


「では。どうぞ。聖服に」


「はい?」


「あっ色仕掛けはやめてください。他の人のは効きませんが」


「いや、どうでもいいですけど」


 ブーメランパンツの彼。堂々としている。


「さあ。はやく闘りましょう。着替えてください」


 ばかなひと。


「じゃ、行きますね」


 もはや本気を出す必要すらない。


 間合いを詰めて。


 足を払って、そのまま身体の軸を回して蹴飛ばす。


 綺麗な顔面に。


 掌低。


 ブーメランパンツが、吹っ飛んだ。


 何が起こったのか分からないというような、顔。


「これが私の聖服ですけど」


「ばかな。ミシン屋の服のままなんて。ロングスカートに長袖で、上着まで。肌露出がゼロじゃないか」


 ブーメランパンツ。


 がら空きの胴に、肘を叩き込んだ。


 ブーメランパンツ。吹っ飛んで、襤褸切れのように転がる。


「肌露出が多い方が強いっていうのが、まず間違いなんです」


 戦闘スタイルを徹底して磨き、その上で精霊と聖服のバランスを考えるのが、基礎の基礎。


 肌露出をひたすらに増やして精霊に頼るのは、ただの露出狂。というか、ばか。


「終わりですか?」


 転がっているブーメランパンツ。


 起き上がる素振りを見せないので、かかとで思いっきり膝の裏を踏みつけた。


「はやく起き上がってきてください」


 膝の裏を砕いたから、もう起き上がれないだろうけど。


「こんなに」


「はい?」


 ブーメランパンツ。うつぶせ。


「こんなに。違うなんて。俺なんか、足許にも。及ばなかった」


「起き上がるの。やめるの。どうするんですか?」


 言いながら、頭を掴んで、闘技場の床に叩きつける。二度。三度。四度。五度。


「ギブアップ」


「そう」


 ぼろぼろのブーメランパンツに照準を合わせる。


「じゃあ、さようなら」


「くそっ。あなたに会えて、嬉しかったのに。まだまだですね。僕は」


「ん?」


 何か言ったけど、気にせずブーメランパンツに向かって精霊をぶつけた。


 手と顔だけを露出していて、精霊の力も小さい。それでも、集中して集めれば、威力と精度は出せる。


 ブーメランパンツを、焼き切った。


 闘技場が、消える。


 戻ってきた。いつものミシン屋。


「お見事です。というか、お相手が雑魚でしたね。顔はいいのに」


 水着に二重パレオの運営。


「平和な世の中なんて、こんなものです。次の大規模イベントはまだなんですか?」


「いやあ、無茶言わんでください。世間様のほとぼりが覚めるまで全裸戦争モノは無理ですって」


「そう。残念。とても残念」


「いや、まあ。そういうときは、ゲームじゃなくてね。ぜひリアルの方でも、脱ぐとか脱がすとかやってくださいよ」


「え?」


「じゃ、行きますね。ちゃんとテキストメッセージ確認してください。披露宴に合わせてイベントとか開きますから」


 運営が消える。


 ヘッドギアを外して、テキストメッセージを確認する。


『さすがの強さでした。次は、もっと長く戦えるように。精進します』


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ミシン屋さん 春嵐 @aiot3110

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