final & prologue.

「もう、行きます。いままで。ありがとうございました」


「勝手に告白して。勝手に。ごめんなさい」


 あなたのやさしさは。


 いきぐるしい、です。


「ごめんなさい。本当に」


 でも。わたしには。


 わたしの口ではなく。目を見て。


 私と喋ってくれるのは。


 あなただけ、だから。


「いいえ。あなたのことは、みんなが、大事に思っています。僕だけが、間違ってる。間違ってたんです。あなたを」


「僕は」


「僕はやさしくなんか、ない」


「僕は。あなたの隣で。あなたのことが。知りたかった。みんなの知らない。あなたの、ことを。知りたかった」


「でも。雨に打たれているあなたを見て。僕は」


「僕なんかより、あの紫陽花のほうが、ずっと。あなたをよく知っているように。見えました。僕がどれだけ、間違っていたかも」


 じゃあ。


 わたしの知らない。


 あなたを。


 見せて。


「うわっ」


 やさしいだけではない。


 あなたを。


 おしえて。


「僕は」


「あなたのことが好きです」


「やさしさではなく」


「自分勝手に」


「あなたが、欲しいと。勝手に。ひとりで。思っていました」


 自分勝手。


「はい。その通りです。やさしくも、なんともない」


 わたしも。


 あなたが好きです。


 あなたのやさしいところだけ、取って、食べようと。してました。


 そんなこと、できないのに。


「僕の、やさしいところだけ」


 やさしいだけは。


 つらい。


 とても。つらいです。


 だから。


「あ」


 うわっ。


「痛い」


 あ、ごめんなさい。つい身体が反応して。


「雷。もしかして、こわいんですか」


 あ。


 いや。


 わたしは。


「僕の知らない、あなただ」


 雷。


「また光った」


 だって。


 こわい。


 こわいです。


 大きな音がするし。光るし。


「そう、ですか」


 このまま。


「このまま?」


 わたしを抱いて、いてくれますか?


「難しいと思います。だってほら」


 また。


「こうやって光る度に、僕の背骨が。悲鳴を」


 ごめんなさい。つい。


「よいしょ、と」


 うわっ。


「こうやって、あなたを抱いたまま、なら」


 はずかしい。


「行きましょう。雷の聞こえないところへ。戻りましょうか」


 はい。

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紫陽花、揺雷 春嵐 @aiot3110

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