星になった僕④
避難所は流石に静かとはいかず、かなり騒がしかった。 それもそのはず。 迫っていた星が、突然消えてしまったのだから。
ニュースでも何が起きたのか分からないといった状態で、情報が混乱しているようだ。
―――これだけ人が多かったら、探すのは大変だぞ。
『もう帰っていいんじゃないか?』といった声も聞こえるため、一度戻るという手もあった。 だがタイムリミットがいつになるのか分からないことから、とりあえず歩いて探してみることにした。
そのつもりだったのだが――――何故か視線が、自分に集まりヒソヒソと話している人がいる。 星弥はアイドルの卵であったが、名は全く知られていない。
だから何故視線が集まるのか、理由が分からなかった。
―――もしかして、俺の容姿があまりにもいいから?
―――それとも、芸能人オーラが既に出ちゃっているのかな?
そのようなことを考えたのだが、ヒソヒソ話が聞こえた瞬間耳を疑った。
―――・・・え?
どうやら注目が集まっている理由は、星弥が光っているからだそうだ。
―――そう言えば、そうだった。
―――周りからも光って見えるとは、思ってもいなかったな。
「星弥、くん・・・?」
幸いなことに、彼女を見つけたのは自分ではなく、自分を見つけたのが彼女だった。 目立っていたため、当然のことなのかもしれない。
「月菜(ルナ)!」
「やっぱり星弥くんなんだ!? でも、何で? 事故、で・・・私・・・」
「とりあえず、目立っているから移動しよう。 話はそこでだ」
「・・・分かった」
避難所から移動し、家へと向かっている。 星弥が、もう何も起こらないということを月菜に教えたためだ。 死んで星になったこと、星から人間に戻ったこと。
今人間でいられるのが、どのくらいの時間か分からないこと。 それを伝えた。
「目の前に星弥くんがいるっていうだけで、信じられるよ」
「当の本人である俺の方が、半信半疑なくらいだからな」
「そうだよね。 『スターになりたい』ってずっと言っていたけど、本当に空のお星様になっちゃうなんて」
「いや、それ、普通に死んだ人みたいに聞こえるから!」
星弥は以前、友人に言われたことを思い出していた。 『星になりたい』という言葉と『スターになりたい』とでは、まるでニュアンスが違う。
「ふふ。 それで、星弥くんは私に会いたくて戻ってきたの?」
「・・・一番にやりたいことっていうのは、月菜に会うことだったから」
「嬉しい」
「次に思ったのは、スターになるっていう夢が道半ばに潰えてしまったこと。 でもそれは、今すぐにどうこうできることじゃない」
まだデビューもしていなかった本当の卵。 スターになるどころか、アイドルとしてメディアに出れるかどうかも分からなかった状態だ。
「そうだね。 体が光っているから、スターって感じはするけどね」
「それは何か違うんだよなー。 ただ悪目立ちするだけで」
「かなり発光してるよ。 多分、夜道で懐中電灯がいらなくなるくらいに」
「えー。 それって、夜寝る時に困りそう。 俺、暗くないと寝れないタイプ」
「私は、ちょっと明るい方がいいよ」
そんな些細な話をして、二人は笑った。 生きていた時に当たり前にできていたことを、当たり前のようにする。 それだけで、人間として戻ってきた価値があったと星弥は思った。
だがそれも、長くは続かない。
「星弥くん、体が透けてきてる!」
「・・・そうか。 どうやらタイムリミットのようだ」
「嫌だよ! 折角会えたのに・・・。 また私を、一人にするの・・・?」
「俺はいつでも、空から月菜のことを見守っているよ。 だから、月菜は俺の叶えることのできなかった“スターになる夢”を叶えてほしい。 それを託したかった」
「・・・」
月菜は星弥がいなくなり、一人になってしまい、この道を進むことを断念しようかと考えていた。 二人で歩む道のり、それが一人になってしまってはいつも星弥のことを思い出してしまう。
それが辛くて仕方がなかった。 心の乱れは歌やダンスにも影響し、まるで螺旋階段を転げ落ちるような負のスパイラルに陥ってしまっていたのだ。
「月菜・・・?」
「私・・・」
星弥の変わらない顔。 そして、空からずっと見ていると分かれば情けない姿を晒すわけにはいかなかった。
「うん、私頑張るよ。 星弥くんの夢を、ううん、二人の夢を叶えてみせるから」
「ありがとう。 そして、ごめん。 隣を歩けなくて」
星弥は、月菜が足踏みしているのを知っていた。 弱音を吐き、泣いているのも知っていた。 だけどそれは言わなかった。 自分の信じた彼女は、いずれ必ず前を向くと知っていたから。
「また会える?」
「・・・あー、それは無理かもな」
「どうして?」
「いや、会えるよ? 会えるけど、俺が来たらみんなに迷惑がかかるんだよ。 ・・・ほら、今日みたいに」
「・・・じゃあ、年に一度だけでもいい。 貴方に会いたい」
「それならいいけど・・・」
「今日の日付にしよう! 7月7日、七夕の日! 今度は人がいない、山で会おう。 毎年七夕の日、私もそこへ行くから。 ・・・頑張るからね、私」
「・・・あぁ、毎日君のことを見ているから。 どんなに強い雨が降ろうが、どんなに濃い雲がかかろうが、俺は絶対に顔を出すから。 もし空で一番輝いている星があったら、それは俺だと思って」
―――本物の星になるのって、案外悪くないのかもしれないな。
―――いつでも彼女のことを、輝かせてあげれるから。
―――・・・俺の分まで頑張れよ、月菜。
-END-
星になった僕 ゆーり。 @koigokoro
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