歴史について
「歴史小説を読む時って何を期待して読んでるの?」
という作家の方のポストがツイッターに流れてきたので少し考えてみた。
私は今のところ歴史小説を投稿してはいないが、構想を考えたことは何度もあるし、書き上げたいと思っているものもあるので、これは私にとっても関係のあることだと思ったからだ。
皆さんも何を期待して歴史小説や歴史に触れているのか、是非とも教えてください。
さて私は歴史小説に触れるのが早かった。
初めて『三国志』を読んだのは小学校低学年の時だったと記憶している。何がきっかけだったかは覚えていないが図書館で借りてきた。子供向けに少し分かりやすく書かれたバージョンだったが、全6巻か7巻のうちの2巻目を借りてきたのを覚えている(1巻は誰かが借りていたのだろう)。
ゲームの『信長の野望』や『三国志』をやり出したのも小学3~4年の頃だったし、小6の時に大河ドラマで『秀吉』がやっていたのを機に日本の戦国時代にハマっていったのは以前にも書いたと思う。
そんなわけで小学校高学年になると歴史……特に日本の戦国時代を扱ったものばかりを読んでいた。堺屋太一だとか戦国時代を扱ったPHP文庫など大人向けの小説も読むようになっていったが、特段内容が難しいとはあまり思わなかった。
また中学生に入ると『るろうに剣心』をきっかけに司馬遼太郎にハマってゆく。司馬遼太郎で特に好きだったのは『燃えよ剣』『世に棲む日々』『十一番目の志士』などの幕末を扱った小説だった。
その後大人になってからもずっと歴史小説は好きだ。最初に触れた戦国・幕末期の日本史や三国志を扱ったものへの興味は続いているし、最近はそれ以外の時代の東洋史にも興味がある。
西洋史に関する興味はそれに比べると薄い。やはり自分と馴染みの薄いものに関しては興味を持ちにくいのだろう。例外的に大航海時代あたりに対する興味は強いのだが、これもゲームでやった『大航海時代』の影響かもしれない。
さて私はかなり歴史に興味を持つのが早かったわけだ。
子供の頃から比較的本を読んできた方だとは思うが、ある時期までの私は「本をよく読んでいる文学少年」みたいな見方は絶対にされたくなかった。「自分が読んでいるのは歴史の本ばっかりだから! 別に文学とかには興味ねえから!」という意識があったように思う。
歴史小説を読むということは、何か他の小説を読むのとは違った意味がある……と私は思っていたのだろう。
さて本題である「歴史小説を読む時って何を期待して読んでるの?」という点について私の場合を考えてみよう。
まあそもそもの前提として歴史小説の中でも色々なジャンルがあって、作品ごとに面白味は異なるというのは確かだろう。あくまで私が読んできたものの中で私は何を面白いと思って読み続けてきたのか、ということになる。
まず一つは以前もどこかで書いたと思うが戦いの面白さである。私にとってこれは外せない。戦国時代も三国志もメインとなるのはやはり戦争だ。
まずは実際の戦場での戦闘が抜群に強い張飛や呂布に憧れたし、奇想天外な作戦を立てて不利な状況から自軍を勝利に導く諸葛亮や徐庶にも憧れた。それから自軍のシステムを整備して戦場での戦闘に至る以前に必勝の体制を作り上げてゆく、という堺屋太一の描いた織田信長にも強く惹かれるようになっていった。
強さにも色々な段階がある、強さの範囲を徐々に拡大して捉えられるようになっていった……というような感覚だろうか。
まあしかしその中でも色々な価値観は芽生えてくる。
人間性がクソで裏切りを繰り返し悪逆非道と言うしかないが圧倒的に強い呂布も魅力的だが、逆にそんな悪辣な主君呂布に最後まで殉じた陳宮も魅力的だ。老獪でこれまた裏切りを繰り返し稀代の悪人と呼ばれた(最近の歴史研究ではその評価は異なってきているようだが)松永久秀も魅力的だし、時代の流れに逆らって主君豊臣家の大義名分ために徳川家康に喧嘩を売って殉じていった石田三成もたまらなく魅力的だ。
単に強いだけでなく、忠義だとか武人としての正しさ……みたいな価値観も感じられるようになってからは、物語をより楽しむことが出来るようになったと思う。
また判官びいきというか敗者であるが故の魅力……というのもどこか感じ取れるようになっていったのかもしれない。
司馬遼太郎の描く幕末の世界観にも私はまた大きな魅力を感じた。
ここでもやはり最初に来るのは武力だ。強いヤツが魅力的なのはいつ如何なる時も不変だ。しかし戦場での華々しい戦争が主であった戦国時代に比べ、司馬が描く幕末の戦闘は実際の刀槍を用いた個人戦が主だし、どこか暗い色合いも帯びている。
新撰組は公安警察的な存在であるとともに暗殺集団でもあるし、長州側のいわゆる志士たちもほとんどテロリストのような存在だ。どの人物も「限りある自分の人生を用いて何を成すか?」ということをテーマにしているよう思う。そういった意味で司馬の描く幕末は非常に内省的で暗い。国を動かす立場からの戦争……という視点ではなく、あくまで個人がどう生きるか(というよりもどう死んでゆくか)、という視点であるがゆえにこれだけ内省的なのかもしれない。
というわけで司馬遼太郎を読み始めるようになってからは、その思想の強さみたいなものがたまらなく魅力的に映るようになっていった。司馬と同じくらい国民的時代作家とされる池波正太郎も何冊か読んだが、「愛する女とセックスして平和な家庭を築いていくことこそが結局至高」というような、あまりに平和で凡庸な価値観しか提示されないことがとにかく腹立たしかったものだ。
「思想が強~い笑」というのは最近では揶揄にしか用いられないが、思想は強くてなんぼに決まっている。思想を持たないなんてのは何も学んできていないことの表明でしかない。もちろん自身の思想を常に更新し続ける柔軟性は必要だが。
歴史に何を求めているか、という問いに対する真っ当な答えとして有力なのは「過去から学ぶ」ということだろう。先人の失敗から我々は多くの教訓を得ることが出来る。
「驕れる平家は久しからず」という言葉は端的にその側面を表しているように思える。どんな功績を残した成功者もその子孫はほとんどが政治的・倫理的・軍事的失敗によって王座を追われている。
しかし「何か今につながる教訓を得ようとして歴史を学ぶ」という姿勢が過剰になるのはあまり好ましくないだろう。事態の推移を過度に単純化して見たり、先入観を持って歴史を眺めることになり兼ねないからだ。「有用な教訓を得られないならば歴史を学ぶ意味はない」という姿勢は学問に求められる姿勢とは真逆のものだろう。
もう一つ、自らのアイデンティティを築いてゆくというのも歴史を学ぶ大きな意義だ。
私が日本史を特に興味を持って受け入れられたのも、それが連綿と今の私たちに繋がっているからだ。日本の戦国時代も、薩長を中心とした新政府軍と旧幕府軍の争いも、それらを経て私たちを形作る一つの歴史的事実であるからだ。
国が歴史を教育に含めているのは当然この側面が強いだろう。日本人としてのアイデンティティを形成することで日本という国家に愛着を持ってもらい、日本のために生きて国益をもたらすことを期待して歴史教育をカリキュラムに組み込んでいるのだ。
こう書くと右翼的な思想を感じ取ってしまう嗅覚の鋭い方もいるかもしれないが、これはごく自然なことなのだし、もっと露骨な歴史教育をしている諸国も多いであろうことは念頭に置いておいて欲しい。
さて冒頭の問いに戻ると問いは、(読者は)「歴史小説を読む時って何を期待して読んでるの?」というものであった。
今までは歴史と歴史小説とを区分せずに書いてきたが、当然そこには大きな違いがある。
歴史というものは、種々の厳密な手続きを経て歴史家が認めた歴史的事実のことである。
それに対して歴史小説はフィクションだ。大まかには歴史的事実を踏まえつつも(当然それから大きく逸脱したものもあるが)、詳細な部分は作者の細かい想像が働く。
当然、歴史的事実と歴史小説で描かれるフィクションとは厳密に区別しなければならない。しかし学校で習う歴史だけで歴史に強い興味を抱く人は少数派だとも思う。歴史小説から歴史に興味を抱くようになった人は多いだろうし、フィクションでも歴史小説の持つ意義は大きいと思う。
その上で歴史小説に何を期待しているのか、という問いに戻る。
一つ、正史の歴史だけでは埋めきれない空白となっている詳細を埋めるという部分はあるだろう。歴史的事実だけでは見えてこない人間たちの人柄や内面などは筆者の想像力の働くフィクションでしか描けない部分がある。
もう一つは大きな視点を持つということだろうか。政治や軍事といった大規模な視点から物事を見て考える、というのは歴史小説の一番の醍醐味かもしれない。もちろん完全にフィクションのファンタジー世界でもそうした物語はあるが、それは歴史小説的な手法をファンタジー世界に適用したということだろう。
私にとっての歴史小説の魅力や特徴は大体こんな感じだろうか。
知識と興味は両輪であり、そのどちらが先かと論じるのは卵が先かニワトリが先かを論じるようなものだ。いつの間にか私はその輪の中に巻き込まれていたということだ。
何となく歴史には興味が薄い、という人はどんなきっかけでも良いのでその輪の中に入っていって欲しいと思う。歴史の魅力は様々あり、知ってゆけば知ってゆくほどその面白さに気付くだろう。
きんちゃんのエッセイ集 きんちゃん @kinchan84
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